稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2024年11月、ウィキデータ・クエリ・サービスを用いて、ドイツのオーケストラの音楽監督等を務めた指揮者たちの出生地をマッピングしたところ、整備されていないデータに気づいたので編集しておきました。本稿では、その模様をまとめます。
経緯
ドイツのオーケストラによる録音を聴き比べていた際、ふと「ドイツのオーケストラで音楽監督を務めた経験がある指揮者の出身地をマッピングしたいな」と思ったので、ウィキデータ・クエリ・サービスで実行することにしました。
作成
クエリを作成したのち、それをウィキデータ・クエリ・サービスに入力し、各自の出身地を地図として表示しました。具体的なクエリのURLおよび実行結果は以下のとおりです。
未整備データの発見
私はクラシック音楽オタクなので、上記の地図を見て、整備されていないデータが少なくとも5件あると気づきました。具体的には、以下の指揮者たちに関する情報が、それぞれのオーケストラのウィキデータに登録されていないと気づきました。
- 若杉弘(日本)
- 上岡敏之(日本)
- カーチュン・ウォン(シンガポール)
- ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス(スペイン)
- ズービン・メータ(インド)
プロパティの検証
ここから行うべきは、各オーケストラのウィキデータ項目に、プロパティ「音楽監督 (P3300)」を追加し、バリューとしてそれぞれの指揮者の項目を入力することです。ただし、心配な点があったので、一旦立ち止まってプロパティの用法を確認することにしました。
懸念したのは、「音楽監督」という名称ではないポストを得た指揮者を、プロパティ「音楽監督 (P3300)」のバリューとして入力してよいかです。例えば、ニュルンベルク交響楽団の「首席指揮者」を務めたカーチュン・ウォンを、ウィキデータ「ニュルンベルク交響楽団 (Q869956)」のプロパティ「音楽監督 (P3300)」に追加してよいかということです。
ということで、プロパティの用例を確認するため、プロパティ「音楽監督 (P3300)」およびその議論ページ「Property talk:P3300」にアクセス。さらには、このプロパティが作成された際の議論「Wikidata:Property proposal/musical conducter」も確認しました。
結果として、プロパティ「音楽監督 (P3300)」は首席指揮者の入力にも使用してよいだろうと判断。判断に至る経緯は以下のとおりです。
- プロパティ「音楽監督 (P3300)」の英語ラベルにおける「別名」に「principal conductor(首席指揮者)」が記入されている。
- 「このプロパティは『首席指揮者』には使うな or 使ってもよい」という制約は、上記の議論ページ等になかった。
- ウィキデータで「principle conductor」と検索したが、相応しいプロパティがヒットしなかった。
- 首席指揮者、常任指揮者ごとにプロパティを用意するという姿勢は、不特定多数が編集に携わるウィキデータにとってあまり好ましいことではないだろうと判断。
- そもそもこのプロパティは「musical conductor」として設立したものであり(正確には「musical conducter」として立項されてしまったがすぐに修正された)、「musical director」はあくまで別名の一つ。
上記の判断については批判もあるかと思われますが、粒度が高いプロパティの設定は、各国の国立図書館や音楽大学が責任をもって作成するオントロジーにおいて行われればよいのではと個人的には感じています。そのIDをウィキデータに紐づけることで、ウィキデータの質もある程度担保されますし、別機関のデータも対象とした横断検索が可能になりますしね。
データの編集
ということで、下記オーケストラのウィキデータをチマチマと編集しました。なお、編集時に用いた主な情報源は “Grove Music Online” や各種新聞記事です。なお、前者はウィキペディア図書館からアクセスしました。
- バイエルン国立管弦楽団 (Q683117)
- ベルリン放送交響楽団 (Q675494)
- ニュルンベルク交響楽団 (Q869956)
- シュターツカペレ・ドレスデン (Q584017)
- ヴッパータール交響楽団 (Q2288970)
また、「若杉弘 (Q975757)」のプロパティ「出生地 (P19)」のバリューが「ニューヨーク (Q60)」となっていたので、出典を用いて「東京都 (Q1490)」に修正。さらに、そもそも「musical conductor (P3300)」の日本語ラベルが「音楽監督」なのは混乱を招くなと思ったので「指揮者」に変更し、「音楽監督」は別名欄に移動しました。
再作成
その後、ウィキデータ・クエリ・サービスを用いて再びマッピングを実施しました(URLは上掲のとおり)。日本、シンガポール、インド、スペインに赤い点が追加されたのがわかりますね。
まとめ
ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して、ドイツのオーケストラの音楽監督等を務めた指揮者たちの出生地をマッピングしたのち、それに基づき未整備データを発見・修正した経緯について記しました。ウィキデータ編集者にとって、SPARQL やデータ可視化技術は未整備データを発見・修正する上で大いに役立ちます。本稿がその可能性を示す一例となれば幸いです。
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