edit Tangoレポート2024 / №14 ウィキペディアにゃウン~丹後峰山のものづくり~

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動物の鳴き声を表現する言葉は、言語によって様々な音があてられるそうですが、日本では、猫の鳴き声は一般に「にゃーにゃ―」と文字化します。猫は日本で特に人気が高く、多くの猫グッズや猫の本が世にあふれ、なかにはそれら猫グッズを専門に扱う書店や美術館、寺社もあるほど身近な動物です。

「ウィキペディアにゃウン」は、そんな猫が世界を救う!と、猫をモチーフに掲げた市民団体・こまねこまつり実行委員会が主催するウィキペディアタウンで、私たちedit Tango誕生のきっかけとなった京丹後市におけるWikipedia普及活動のメイン・イベントとして、2018年にスタートしました。本稿では、今年7年目を迎えた地域エディタソン「ウィキペディアにゃウン」を紹介します。

edit Tango主催イベント2024 / №14 京都府京丹後市 ウィキペディアにゃウンvol.7 丹後峰山のものづくり

私たちの地元・丹後半島では、およそ300年前の江戸時代中期に大飢饉に見舞われ、住民のおよそ5人に1人が餓死したと伝えられる時代がありました。この当時、農耕だけでは生きていけないと考えた人々によって、丹後半島の2か所でほぼ同時に生まれた新たな産業が、絹織物「丹後ちりめん」です。絹を生み出す蚕や織物の外敵はネズミであり、このネズミによる被害を防いでくれる猫は、丹後の人々にとって大切なパートナーでした。

(まちあるきで丹後ちりめんの生地商を訪問 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

そんな土地柄、織物振興を祈念した神社に奉納されたのが、猫を象った石像物の「こまねこ(狛猫)」です。そのこまねこにあやかり、丹後ちりめんと猫をモチーフにまちおこしに取り組む有志が2016年に始めた祭典が「こまねこまつり」。このまつりでは、京丹後市峰山町を中心に、多くの市民によって数十もの企画が立案・実行されており、「ウィキペディアにゃウン」はそのうちのひとつとして2018年にスタートしました。初回は参加者集めにも苦労し、1回限りのイベントになるのではないかと危惧もされましたが、このときWikipedia日本語版に立項した項目「こまねこまつり」はWikipedia日本語版で良質な記事(GA)の認定を受け、地域住民にも高評価をいただけたことでその後も継続して開催されています。

この「ウィキペディアにゃウン」は2018年~2020年までは単独のイベントとして企画されましたが、2021年以降は、より効率よく様々なアプローチでWikipediaの普及を図るべく、こまねこまつり関連企画のなかでも特に人気の高い街歩きイベント「こまねこウォーク」に合わせて開催するようになりました。

このイベントで、参加者はまず午前中は「こまねこウォーク」に参加し、このウォーキングイベントにのみ参加する初対面の人々と交流し、場合によってはWikipediaの編集イベントについて紹介しながら、町歩きで巡るスポットについて写真などの資料を収集します。そして午後は、複数の公共図書館からあらかじめお借りしておいた文献を出典に使用し、まちあるきで巡ったスポットに関連したWikipedia項目を編集します。

30人以上のこまねこウォーク参加者やスタッフのなかで、エディタソンの参加メンバーを見分け、また、広報するために、私たちはウィキペディアストアから購入したお揃いのTシャツでイベントに参加し、他の企画の参加者やメディアからの「あなたたちは何のグループ?」という質問に皆が気さくに応じてWikipediaの普及に努めました。過去にはこうした参加者ひとりひとりの交流の結果、午後のエディタソンに予定していなかった地元の人が飛び入り参加し、新規項目を立項してくれたこともあります。

(ウィキペディアにゃウンvol.7 編集活動の様子 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

この編集活動をサポートするウィキペディアンは、私たちedit Tangoの経験者だけではありません。関東地方など、あえて遠くの様々な地域で活動する編集者を招き、イベントの前後で各地でのウィキメディア普及活動の事例紹介をしてもらうこともあります。今年の「ウィキペディアにゃウン」では、静岡県で主に活動する「code for ふじのくに」の市川希美氏が、2016年から地元自治体と協働で継続的に取り組んでこられたウィキペディアタウンや、様々なオープンデータの活用やシビックテックの取り組みを紹介してくれました。

その時その場でWikipediaを編集するだけなら、私たちの企画に他地域から経験者に参加してもらう必要性は高くありません。しかし、毎年継続的に参加している丹後地方の人々に、イベントを通してより多様な知見と新鮮さを提供することは、私たちの活動に倦怠感をもたらすことなく、また、丹後地域を離れて各地のエディタソンに参加し研鑽を積むことが難しい家庭事情を抱えたユーザーにも大きな成長の機会をもたらしてきました。edit Tangoのウィキペディアタウン関係者では、主に私やuser:Asturio Cantabrioが他の地域でも活動しているためによく知られていますが、実際には私たちの他にも複数名のウィキペディアンが、限界集落や教育機関などそれぞれのフィールドで講師もできる人材として頼りにされる水準に達しており、彼ら・彼女らが企画し主催するエディタソンもあります。私たちもまた、様々な人々から相談を受けた企画の内容に応じて彼ら・彼女らを頼りにしています。

(静岡県からお招きしたゲスト講師の事例紹介の様子 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

〈これまでの「ウィキペディアにゃウン」〉

  1. 2018年 テーマ:こまねこまつり、丹後ちりめん 「こまねこまつり(GA)」など4項目を立項または加筆
  2. 2019年 テーマ:御旅市場と日進製作所(峰山町の商工業) 「御旅市場」「小西川」など4項目を立項または加筆
  3. 2020年 テーマ:丹波地区(古代の丹後地域の中心地) 「丹波の大溝」「狛猫」など10項目を立項または加筆
  4. 2021年 テーマ:河辺飛行場(第二次世界大戦の遺構) 「河辺飛行場(GA)」など2項目を立項または加筆
  5. 2022年 テーマ:京極氏(江戸時代の峰山地域の藩主) 「峰山一区」「常立寺」など7項目を立項または加筆
  6. 2023年 テーマ:丹後半島の食文化 「丹後国営農地開発事業」「丹後クラフトコーラ」「間人ガニ(GA)」など8項目を立項または加筆
  7. 2024年 テーマ:丹後のものづくり 「吉村商店」「丹後織物工業組合」など5項目を立項または加筆

ものづくりをテーマとした今回の「ウィキペディアにゃウン」では、丹後ちりめん産業に深く関わる地元企業や染織家の工房を訪ね、貴重な制作や流通の工程のお話しを聞き、記録写真を撮らせていただくことができました。

丹後ちりめんは、絹糸に数千回の撚りをかけることで豊かな凹凸を生みだし、さらに製織の際に文様を織り込むことで、無色でありながら多様な光沢を創り出す白生地に特徴がある絹織物です。一般に流通する日本の和装布地の6割以上が丹後ちりめんであり、近年はその技術が洋装やインテリア、美術工芸品にも活用されています。その特徴的な文様のデータは以前は紙媒体でしたが、「現在の主流はフロッピーディスクで職人に共有されており、最新のデジタルデータはUSBメモリーで……」という説明に、フロッピーディスクを知らない若年世代のみでなく多くの参加者が衝撃を受けながら、遠目にはすべて無地の白生地にみえる、異なる文様が織り込まれた織物の数々に感嘆していました。

(「丹後ちりめん」生地商の蔵にて 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

Wikipediaには自身の経験や見聞きしたことを記述することはできませんが、こうした生の体験は項目を執筆するための文献調査に必ず役に立つものです。時には、その題材に長く携わってきたからこそ知る文献や資料を提供してもらえることもあります。今後も地域の様々なコミュニティと協働し、Wikipediaへの理解と未来につなぐデータの蓄積に努めていきたいと思います。

山口県から参加し初めてWikipedia編集に取り組んだ参加者は、このイベントの感想を「今年5月に親族が鬼籍に入り、もっと会ってお話を聞いておけば……といった思いを強くした。今回、何とか時間内にまとめることができたのは、風景や建物を見、人に会って話を聞いた過程があってこそ」と振り返っています。また、和歌山県から参加し初めてWikipediaを編集した参加者は、「タイミングがあえば、またぜひ参加したいと自然に思った。次回は地元の他の人も誘ってみたい」と話していました。

他の地域で自身もエディタソンを主催する参加者は、「ローカルネットの情報はあまりに個人に寄り過ぎているので、もうちょっとだけ上のレイヤーでの取材やアーカイブが必要なのだと認識した」と述べ、また、他の参加者も自身のブログ 「『ウィキペディアにゃウン vol.7 ものづくりの丹後』に参加する」でこのイベントについて振り返りを行っています。

(峰山町のシンボル「狛猫」 Asturio Cantabrio, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

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