イベントレポート2024 / №21 遺跡deウィキペディア in ユリ遺跡

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福井県若狭町は私たちedit Tangoの地元である丹後半島のすぐ隣、北前船で栄えたよく似た文化圏の地域です。古代の墳墓や遺跡が多いのも、共通する特徴のひとつ。今回のウィキペディアタウンのテーマ「ユリ遺跡」は、そんな丹後地方と福井を結ぶ幹線道路の舞鶴若狭自動車道の、まさにその場所にありました。

2024年12月15日、福井県教育庁埋蔵文化財調査センターが主催する今年2回目のウィキペディアタウンに、筆者は講師として協力参加してきました。

なお、2024年6月に同主催者により開催された「遺跡deウィキペデイア in 糞置遺跡」のレポートはこちらです。

(若狭三方縄文博物館にて丸木舟を見学する参加者 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

edit Tango参加イベント2024 / №21 福井県三方郡若狭町 縄文 遺跡deウィキペディア in ユリ遺跡

若狭町は、全国的にも名高い鳥浜貝塚や、年縞で知られる水月湖をはじめ、日本のなかでも縄文研究で特に注目の地域です。今回のテーマであるユリ遺跡は鳥浜貝塚のすぐ近くにあり、古代の水上交通の発展状況が推察される丸木舟が9隻出土しています。これらの丸木舟がすべて展示されている若狭三方縄文博物館が、この日のイベント会場。通常は撮影不可の博物館ですが、このイベントでは撮影OK、Wikimedia CommonsにもアップロードしてOKと全面協力のもと、まずは午前中、埋蔵文化財調査センター文化財調査員からレクチャーをいただき、フィールドワークで鳥浜貝塚とユリ遺跡が埋蔵されている一帯を徒歩で巡りました。

参加者は、講師として招かれた私とuser:Asturio Cantabrioのほかには、地元高校の教職員や福井県内の図書館司書や大学教授、公務員など10名。さらに、埋蔵文化財調査センターの職員数名が文献調査のサポートに終日参加していました。この日はイベント中止も検討された冬荒れの天気予報が出ていたのですが、皆の祈りが通じたのか、フィールドワークの間はびっくりするほど晴れ間がのぞいて気持ちの良いイベント日和となりました。

(鳥浜貝塚にてガイドの説明を聞く参加者たち 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

隣接の年縞博物館がこの日は無料観覧日だったので、お昼休みには博物館を見学したり、公園を散策した参加者もいたようです。

午後は、まず私から45分程度でWikipediaについてのガイダンスを行いました。事前に埋蔵文化財センターの方から「Wkipedia:自著の持ち込み」や「Wikipedia:自分自身の記事」の解釈についてなど、様々な気がかりを相談いただいていたことや、一般参加者がほぼ教育職の人々だったので、ふだんよりも少し意識的に著作権や二次利用についての詳細や、教育現場でのWikipedia活用事例紹介に比重を置いて話します。その後は立項予定の項目の構成を皆で検討し、編集するセクションの分担を決めてから、手分けして文献調査をして各自Wikipedia編集を……というのがいつものパターンですが、この日の編集時間は少し短めの2時間弱の予定であったことと、類似の題材を前回のイベントで比較的しっかり書き上げていることから、少し新しい手法を試してみました。いわゆる文章生成AI、Chat GPTの活用です。

生成AIについては私も最近学び始めたばかりなのですが、「頭脳はアインシュタイン、察する心は5歳児並み」のツールであるそうです。情報の収集・要約・比較は得意ですが、質問者が明確に指示しなかった意図を察して答えを用意したり、収集した情報の正確さを判断することはできません。そうしたAIの特徴を踏まえ、記事構成のヒントを得たり、長文読解の助手として活用することを提案しました。

まず、前回のイベントで立項している同県の古代遺跡「糞置遺跡」のWikipediaの構成をベースに、ChatGPTに「ユリ遺跡」のWikipedia風解説を作成させ、その際に引用元のWebサイト情報も提示させます。次に、ChatGPTが作成した解説文の構成をWikipediaのいくつかの古代遺跡の項目と比較させ、抜けている観点を可視化させました。それらの結果から導き出された記事構成とChat GPTのつくった項目を、いったんGoogleドキュメントに保存し、たたき台として参加者全員に共有します。

Chat GPTの文章は著作権を利用者に譲渡していますが、大本の情報源の文章をAIはそのまま引用している可能性があるので、その点を確認しないうちはWikipediaのサンドボックスに投稿して共有するというわけにはいきません。Googleのリンクがなぜか開けないという参加者もあり、たたき台の情報共有のやり方には課題が残りましたが、AIに作らせたたたき台を提示するのは、内容の正誤を一読して判断できる埋蔵文化財調査センターの職員にとっては、自著の文章をゼロから要約改編して作文するよりもずっと取り組みやすかったようです。

今回、参加者の多くが日頃から文献調査や文章を書くことに慣れている人々だったので、「地理的・歴史的環境」「発掘調査」「出土品」とに大きく3つのグループにわかれて作業するなかでChatGPTの文章を使った人はほとんどなく、多くの人々は『遺跡発掘調査報告書』などから情報をまとめていました。さらにイベント後も自発的に編集を続ける参加者が複数名いて、早々に充実した「ユリ遺跡」の項目は翌日夜半にはWikipedia日本語版メインページの「新しい記事」に掲載されたほどの出来栄えでしたが、このようなケースは極めて稀です。

一般的な地方のウィキペディアタウンでは、多くの参加者が文章を書くことに慣れておらず、1行の文章を編み出すのに数時間を要する人も珍しくはありません。その一方で、題材についての知識や関心は人一倍高い方が多いので、そうした地域のエディタソンでは、適切なAIの活用により、ゼロから奮闘していたこれまでよりも負担なく、飛躍的にスピーディに新規立項に取り組むことができるようになるでしょう。

2025年のedit Tangoでは、この新しいツールを適切に使いこなすプロンプトの開発にも注力していきたいと思います。

(ユリ遺跡から出土した丸木舟の一例 Nihontagli66, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

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