2024年12月5日、三重県にある皇學館大学で図書館司書などを目指す学部生の講座「情報サービス論」に登壇し、Wikipediaとウィキペディアタウンについての講義を行いました。筆者がウィキペディアンとして登壇した大学の授業は、2024年はこの皇學館大学を含む4大学で合計8枠。他にも複数名のウィキペディアンが大学で講演などを行っていると聞き及んでいるので、日本で今、少なくとも10大学以上では、Wikipediaやウィキメディア運動について学生に伝える機会を持てているということになるでしょうか。
今回の講義は90分。講義では、日本各地に普及したウィキペディアタウンを紹介するにあたり、まず次のような話をしています。
- Wikipediaの仕組みや方針
- ウィキメディア財団の理念や取り組みと姉妹コンテンツの紹介
- ウィキペディアタウンが日本で普及する前段にある、国や社会のオープンデータ推進の流れ
- 国がオープンデータを推進することで解決を図ろうとしている課題のひとつである、少子化の影響による生産活動の縮小について
- 同じく、経年による編集者の自然な減少傾向をカバーできるほど新規参入者を確保できていない影響が徐々に出始めているようにも思われるWikipedia日本語版の様々な課題
そして、「Wikipediaを読んでいて間違いに気づいたり、当然あるべき項目が無いことに気づいたら、他人事と思わず、編集に取り組んでみてほしい」と伝えました。
大学特別講義2024 -3/ 皇學館大学「情報サービス論」でウィキペディアタウン講座
受講した学生は50人ほどだったでしょうか。授業後、たくさんの感想をいただいたので、その一部を紹介します。
- 自分が思っているよりもWikipediaの役割は大きいと感じました。自分もWikipediaは割と見るのですが、完全には信用していませんでした。調べ学習などでWikipediaは使ってはいけないと言われてきたので、そこのイメージがあってのことだと改めて思いました。なぜだめなのかまで考えたことがなく、今回のお話の中で、その時の自分が見ていたWikipediaとまた別の時に見たWikipediaでは変わっているとの言葉にすごく納得しました。
- 個人の責任で編集に参加するということが面白かったです。地域史・資・試料のその時々の記録の場がそこにあったら便利に楽しく利用できると思いました。特に、教育目的で地域の遺跡調査報告を載せること、地域の記録を共有することでコミュニティが育つなど興味深いです。インターネット上に投稿することはデジタルタトゥーのイメージがありました。リテラシーを持つ人が世界中にいると思うと素晴らしいです。私のファクトチェックについては、メディアになされるがままという有様です。自身の経験でしか疑問を持つことが出来ないからです。情報リテラシーを持ちたいと思いました。
- アクセスできない資料は、ある人にとってその資料が存在しないに等しいという話が印象的であった。図書館の本などの紙媒体にしかない情報や、都市部の図書館に行かないと得られない情報などをデジタル化し、フリーに公開することは重要であり、利活用される可能性が拡がることを学んだ。
- 私はWikipediaは調べたい物があると最初に軽く見ることが多いです。自分達で編集できることは知っていたけど全言語のなかで13番目に多いことやウィキメディア財団が運営している事など全く知りませんでした。また、物事を客観的に見るため第三者が書くことが大事だと聞いた時は、その視点が大事なのかと驚き、納得してしまいました。Wikipediaはオープンデータであるため、様々な可能性が秘められているんだなと思いました。
- ウィキペディアが正しい情報だけを載せているわけではないことは知っていましたが、嘘ではなくとも正確ではない情報が載っていることがあるとは思っていませんでした。今回その点を理解できて良かったです。ウィキペディアを見る時、出典を確認する分には役立つと知ることができたので今後はそのように活用しようと思いました。
- ウィキペディアのような不特定多数によって常時検証・改修が続けられるデータベースは非常に有用であると思う。ウィキペディアを多用するが信用しない、という人が多いとのことだが、このようなデータベースの利用にあたってはそれが最も正しい姿勢なのではないか。一方、情報を鵜呑みにする人が増えてきているのも確かで、このような態度はウィキペディアの理念と反し、記事の質の向上にも繋がらない。私もウィキペディアをよく使用する。概要を把握したり、参考資料を探すといった用途以外に、海外の記事と比較して、表現の違いを探すことも楽しみの一つとなっている。ある時、過去に読んだ記事を再び閲覧すると、画像データの誤りが大きく訂正されていた。ウィキペディアとは検証することによって利用価値が向上するということを実感した。
この特別講義を設定された国文学科準教授・岡野裕行先生は、文学的な場所を歩いて、作品に縁ある場所や登場する史跡などの情報を言語化する「文学散歩」と「ウィキペディアタウン」を主な研究テーマとされている研究者で、2017年に日本で最初に国立国会図書館に収蔵されたウィキペディアタウンの図書は、岡野先生による『ウィキペディアタウン伊勢の記録』でした。小さな冊子ですが、図書として永久保存が約束された日本で最初の1冊であり、この納本はイベントを開催終わりになりがちな日本のウィキペディアタウン界隈のために頑張ってなかった出来事だったと思います。
2024年12月現在、国立国会図書館(NDL)サーチでウィキペディアタウンを検索すると、図書以外の雑誌や電子資料も含めて19件がヒットします。SNSやブログでの発信も宣伝としては効果的ですが、研究され発展に繋がる材料となる可能性としては、やはり国立国会図書館などに収蔵される書籍に勝る媒体は無いでしょうから、各地のウィキペディアタウンの主催者が、あるいはウィキペディアン達が、その活動をどんどん出版物で紹介し、長く記録されるものにしてくれるといいなと思います。ちなみに、岡野先生が2023年に専門雑誌『図書館界』に寄稿された論文「文学散歩と図書館」では、2000年代に図書館において地域資料を積極的に活用されようとする流れからの、2010年代に流行した文学散歩とWebの活用を視野に入れるなかからウィキペディアタウンにつながり、まちづくりや観光コンテンツの開発などとも関連付けられるようになった経緯が分析されており、2010年代も終わりの頃からWikipediaに関心を持った新参者の私は、とても興味深く拝読したものでした。
岡野先生の「文学散歩×Wikipedia」に続き、2018年頃から神奈川県近代文学館を会場に継続開催されている「Wikipediaブンガク」もそうした流れのひとつなのでしょう。Wikipediaブンガクは、2025年の春には名古屋市でも図書館を会場に開催される見通しがあり、今後の日本でウィキペディアタウンに次ぐ注目のテーマになっていくのだろうか、と、期待膨らむ年の瀬です。
(皇學館大学の学生も在学中に何度か参詣する伊勢神宮 z tanuki, CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
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