イベントレポート2024 / №16 Wikipedia ARTS in AOAA

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「Wikipedia ARTS(ウィキペディア アーツ)は、地域の文化芸術について調べて、インターネット百科事典ウィキペディアの記事にまとめ、広く情報提供する活動です。」と語るのは、一般社団法人 学びの文庫の小林さん。今回の企画、2024年11月2日に開催された「Wikipedia ARTS in AOAA」の発起人です。

愛知県名古屋市で書店hennBooksを営む小林さんは、神奈川近代文学館と神奈川県立図書館を拠点に「Wikipediaブンガク」に取り組むuser:Mayonaka no osanpo氏の活動から、ウィキメディア活用の可能性に気づいた1人。いずれは地元・愛知県内の公共図書館と協力してWikipediaブンガクを開催したい!という夢も抱きつつ、愛知県内で開催されたウィキペディアタウンに参加した小林さんが、ここで複数名のウィキペディア編集者のサポートを取り付け、ブンガクに先駆けて開催したWikipediaエディタソン「Wikipedia ARTS in AOAA」について紹介します。

(クリムト「黄金の騎士」の前で 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 , https://w.wiki/CCte ウィキメディア・コモンズ経由で)

edit Tango参加イベント2024 / №16 愛知県美術館 Wikipedia ARTS in AOAA

愛知芸術文化センター 地下2階にある多目的スペース「AOAA(AICHI OPEN ART ATELIER)」は、愛知県が愛知芸術文化センター の活性化を目的として設置した実証実験のスペースです。愛知芸術文化センターには、愛知県美術館や専門図書館アートライブラリーがあります。

「Wikipedia ARTS in AOAA」では、愛知県美術館の常設展示作品を、研究者でもある副館長に解説いただきながら鑑賞し、アートライブラリーや美術館の学芸員、小林さんらが収集した文献を用いてWikipediaを編集しました。おそらく参加者のほとんど全員がWikipedia編集は初めてと想定されたことから、筆者は講師のウィキペディアンのアシスタントとして相談を受け、10月中旬に行われた企画ミーティングから参加しています。ちょうど10月12日に山梨県で開催されたウィキペディアタウン@北杜(イベントレポート2024/№13)からの帰り道だったため、遠方住まいの筆者も参加できたのですが、美術館の休館日に数時間かけて常設展の収蔵品とアートライブラリーの書架を丁寧にご紹介いただけた経験は、それまでWikipedia編集のサポートという視点でしかこのイベントについて考えていなかった私の興味関心を、題材そのものに大きく傾けるものとなりました。私の地元に縁ある画家の作品が多数収蔵されていたり、私がまだウィキペディア編集者ではなかった頃に企画展で鑑賞したことのある絵があったり……ウィキメディアの編集は、題材に対する予備知識が無くても文献さえあればできるとはいうものの、やはり興味関心の程度は、題材を誠実に理解しようとする努力を喚起し、その結果は編集成果に現れるものなので、これはとても良い機会になりました。

「Wikipedia ARTS」という企画は、もともと日本では2015年に京都で開催されたのが嚆矢とみられます。2018年頃を最後に行われていませんでしたが、Wikipedia日本語版では近年、例えば洋画の項目ではuser:光舟氏やuser:月下薄氷氏、日本画では伊藤若冲の作品を集中的に立項しているuser:Keeezawa氏や、黒田清輝の作品を多数立項しているuser:Gtorew氏、高橋由一岸田劉生の作品を立項しているuser:Gurenge氏など、優れた編集者が何人も活躍しています。定期的なGLAMイベントとしては東京国立博物館の学芸員に協力を得て年に1回開催されているなどのエディタソンがありますが、エディタソンに関わりなくこうした書き手と所蔵館がつながる、ある種のウィキメディアン・レジデンスのような仕組みが、もっと日本で一般的になるといいなと思います。

(イベント当日の愛知県美術館 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 , https://w.wiki/CCth ウィキメディア・コモンズ経由で)

「Wikipedia ARTS in AOAA」では、この事前ミーティングでの視察を経て、愛知県美術館のコレクションや関連項目とWikipedia日本語版の既存記事の状況を検討した結果、講師のuser:Asturio Cantaburioが6項目の題材を提案し、その後、さらに文献調査などが行われ参加者の人数や属性が検討された結果、題材は3つに絞り込まれたうえでイベント当日を迎えました。全体の経緯については、講師を務めたuser:Asturio Cantaburio氏のレポートが詳しいので、こちらをお読みください。

私は、愛知県美術館の収蔵する看板作品のひとつ、クリムトの「黄金の騎士」を、2人の新規ユーザーとともに新規立項するチームに入りました。参加者はほとんど美術鑑賞の愛好家だったようで、百科事典にはなじみが薄く、パソコンを持参していたのもこのチームでは私だけでした。彼らは題材については博識でしたが、スマートフォンでのアカウント作成やWikipedia編集には四苦八苦したり、文献にある文章から事実情報のみを抜き出し、著者の感情や願望は書かないといった情報の選別に戸惑っていました。しかし、草案の文章ひとつひとつの表現について「これは動かない事実の部分(Wikipediaに書ける情報)」「これは著者の感情は入っている部分(Wikipediaには書かない。または、「著者によれば~という」といった表現で誰の意見であるかを明確にする)」「これはどちらでしょう?」と、私と一緒に考えてもらうと、すぐに要領を掴み、最後には笑顔で編集作業を終えることができていました。

イベントでは時間の都合から、Wikiepdia編集も触り程度で、自らの手で情報を発信し蓄積していく面白さも十分に味わえるとはいえません。多くの人は、最初から様々なウィキメディアの方針や編集を理解し、たちまちのうちにウィキメディアンになっていくわけではありません。けれど、思案する時間と丁寧なサポートによって優れたウィキメディアンとなる可能性は多くの人にあり、そのような人々にとって、エディタソンの機会が継続的に、できれば頻繁に身近にあり、そしてそれをサポートする既存のウィキメディアン達が増えていくことを期待したいです。

また、Wikipedia日本語版にこの時に立項した「黄金の騎士」は、同時に立項された美術蒐集家「木村定三」とともに翌週にはWikipedia日本語版のメインページのコーナー「新しい記事」にピックアップされました。メインページに掲載されると、クリムト作品や木村定三氏を知らなかった人々にもこれらの項目がアクセスされ、認知される確率が格段に高まります。その事実が、立項に携わった人々のウィキメディア活動参加への意欲を高めていることを願っています。

(Gustav Klimt, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で)

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