データベースとWikimediaのさらなる連携に向けて #2:Web OYA-bunkoの活用事例

このポストは、データベースとWikimediaプロジェクトのさらなる連携に向け、様々なデータベースの活用事例を紹介する「データベースとWikimediaのさらなる連携に向けて」シリーズの2本目です。1本目のポストでは文化庁が提供するメディア芸術データベースの活用事例を紹介しました。今回は、大宅壮一文庫が提供するWeb OYA-bunkoの活用事例を紹介します。

1. Web OYA-bunkoについて

Web OYA-bunkoは、日本の東京に位置する雑誌専門の私立図書館である大宅壮一文庫が提供するデータベースです。明治時代(19世紀後半から20世紀前半)から現在までの雑誌記事が約732万件収録されています(2023年8月現在)。大宅壮一文庫の本館のほか、公立図書館や教育機関、個人や法人などの会員に向けて提供されています。Web OYA-bunkoは、雑誌を専門としているのみならず、同姓同名の人物を区別する独自の分類方法や、「奇人変人」、「世代」といった分類が存在する特徴的な体系分類でも知られています。

また、Web OYA-bunkoを運営する大宅壮一文庫では何度かエディタソンも開催されています。それについては「雑誌専門図書館の大宅壮一文庫で、スイーツをテーマとしたウィキペディア編集イベント WikipediaOYA を開催」や「日本随一の雑誌専門図書館でエディッタソンを有志で開催」をご参照ください。

2. Wikipediaで活用する

Web OYA-bunkoはWikipediaの記事執筆に大いに活用することが出来ます。そもそも雑誌の記事というのはインターネットでの検索でもあまりヒットせず、流通も限られていることから、存在が見落とされることが頻繁にあります。しかし、得てして雑誌の記事にはウィキペディアンが求める情報が掲載されていることが多いのです。

Web OYA-bunkoを活用した記事はいくつかありますが、まず挙げられるのが『海辺のエトランゼ』という、日本の映画作品についての記事です。この記事では複数の雑誌の記事が参考文献として挙げられていますが、これは全てWeb OYA-bunkoで存在を知った記事です。それらの記事には監督や原作者へのインタビューや作品へのレビューが掲載されていました。こうした情報はインターネットでは簡単には得ることが出来ません。この記事は日本語版Wikipediaの「良質な記事」に選出されていますが、Web OYA-bunkoからの情報がなければ選出されなかっただろうと思います。

画像1. [[海辺のエトランゼ (映画)]] のスクリーンショット.
https://w.wiki/6SB8 (2023年8月10日閲覧).

また、『ここのつの友情』という日本の漫画作品についての記事では、原作者へのインタビューと作品へのレビューが掲載された雑誌の記事をWeb OYA-bunkoで知ることが出来ました。このほか、マスジド大塚という東京にあるモスクについての記事では、このモスクを特集した雑誌の記事を同様に知ることが出来ました。これらのWikipediaの記事は私が作成したものですが、Web OYA-bunkoからの情報がなければ作成すらも出来なかったかもしれません。

Web OYA-bunkoからは「索引」としてパスファインダーも提供されており、それからは記事を執筆するにあたってのアイデアを得ることが出来ます。パスファインダーの有用な活用についてはEugene Ormandyさんの「雑誌専門図書館の大宅壮一文庫をウィキペディア記事の編集に活用する」というDiffの記事もご参照ください。

3. まとめ

大衆文化に関する記事は多くのWikipediaの読者から注目を集めますが、一方で、情報が掲載されている場所が大衆向けの雑誌であることも多く、気軽には存在を知ることが出来ないこともあり、記事の内容が充実しているとはいいがたいものが多いの現状です。しかし、Web OYA-bunkoのような大衆向けの雑誌を専門としたデータベースの存在によって、それらについての情報を得ることが可能となり、そうしたWikipediaの記事の充実に活かすことが出来ます。Web OYA-bunkoは2023年8月現在のところ、これらの図書館や教育機関で利用することが出来ます。このポストが、記事の執筆にあたって参考文献の収集に困っている方々のお役に立てば幸いです。