日本国内で多校協働のウィキペディア・エディッタソンが初めて連続開催

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日本の埼玉県にある、県立大宮高等学校と県立不動岡高等学校が連携して、2022年6月と11月にウィキペディアタウンを開催した。これまで、複数校で同時開催、また連続開催となる取り組みは日本国内では行われておらず、初めての取り組みである。なお、日本の高等学校は、対象とする年齢は、主に15歳から18歳までで、イギリスでの11年生から13年生に当たる。

日本における教育政策との接続性

ここ数年、日本国内においては、選挙年齢や成人年齢の引き下げなど、若年層に対する政策が多く実行されるのと同時に、シティズンシップ教育の必要性が強く叫ばれてきた。同時に、ICTを用いた教育についても政策の観点から「GIGAスクールプログラム」が提示され、小学校から高校まで、年齢にすると6歳から18歳までの児童・生徒へのICT教育に関する方針が示された。現在では、この方針に従い、学校では一人に一台ずつタブレットやパソコンなどの端末が貸与され、学校の内外を問わず多くのプログラムが立案されている。また、高度情報化社会における教育の在り方として「デジタルシティズンシップ」の概念も提唱され、その実践も積み重ねられつつある。直近では「総合的な探究の時間」も設置され、自身で社会課題を発見し持続可能な社会を構築する一員となることが想定され、そのためには、考えるための技法などを学ぶことが求められている。

これらのプログラム(指導計画)に関する内容については学校設置者や教員に委ねられており、国内各地で多種多様な取り組みが展開されている。また、ウィキペディアの考え方を共有し、デジタルシティズンシップを育成しようとする取り組み例はいくつかある。

今回、埼玉県で開催されたウィキペディアタウンは「フィールドワークや文献調査を通して、探究活動の素地を養う」「学校図書館や外部団体の協力の元、他校との連携も含め学外の人との交流の場を創成する」などが目的として掲げられ、そのプログラムとして選ばれたものだ。日本におけるウィキペディアタウンは、その町のことを住人など多くの手で書いていくことで大きな広がりを見せてきた。今回は、直接の住人とは限らない高校生も交えて、学校がある町をテーマにエディッタソンを開催した例だ。

埼玉県立高校で多校同時開催のウィキペディアタウンが開催! Youtube.com

初めての開催

学校側からは学校教員と学校司書が、ウィキペディアンからは、Araisyoheiのほかに早稲田ウィキペディアンサークルのメンバーなどが参加、また探究学習プログラムのコーディネーターとして、アカデミック・リソース・ガイド株式会社が協力した。初回のエディッタソンが2022年6月25日に行われた。

プログラムの前半では、ウィキペディアの編集を始める前に行わなくてはならない文献探索の方法や文章の作り方について、を早稲田ウィキペディアンサークルのメンバーがレクチャーした。具体的には「Google Scholar」や国立国会図書館が提供している「リサーチ・ナビ」などの概要説明や検索演算子の活用(OR検索、NOT検索など)といった文献探索の方法である。また、執筆にあたっては、ウィキペディアの三大方針である「検証可能性」「中立的な観点」「独自研究は載せない」という観点から、「出典を明記し、”素晴らしい~”や”圧勝”などの感想となるような記述を避け、資料で述べられていること」のみを記述していくことが説明された。

その後は、それぞれの学校の教員が前に立ち、ウィキペディアの記事文面をどのように構成していく必要があるのか、要素と方法について説明した。テーマとして「アカデミックライティングの方法について」と銘打たれたが、説明した教員に対して開催後に感想を聞いたところ「あまり説明する機会がない内容で、生徒に伝わっているのだろうか」と少々不安そうだった。しかし、参加した高校生は期待以上の記事を仕上げることとなった。

加須市広報担当部署が撮影した動画 Twitter.com

【大宮経済新聞による取材記事】埼玉県立大宮高でウィキペディアタウン 編集通して地域学習深める

執筆対象の記事テーマとしては、それぞれの開催校やその周辺を中心に、[[埼玉県立大宮高等学校]]・[[埼玉県立不動岡高等学校]]・[[加須うどん]]・[[總願寺]]などが選ばれた。会場となった学校には、学校・市立・県立図書館から集められた資料が並べられ、参加した生徒は、ガイダンスで学んだ内容に留意しながら、編集作業に取り組んだ。当日の模様は、地域メディアや自治体の公式SNSにも動画付きで取り上げられ、その関心の深さがうかがえた。開催後には、何人かの生徒・学校関係者にインタビューした。

参加生徒へのインタビュー

今回まずウィキペディアが編集できるということを初めて知りました。編集するテーマについて調べていく中で、自分の知識が深まっていくのを感じたので、また別のテーマでもやってみたいと感じました。 同時に、ウィキペディアの記事は簡単に編集することができてしまうからこそ、正しい情報や方法で更新することが大切であり、インターネットの使い方に関して、より気をつけていけたらいいと思いました。

髙次野々葉さん(不動岡高等学校:2年)

今回は、大宮高校女子部の前身にあたる成均学園について調べました。その名称は良妻賢母の教養をすべて均しく成すという意味が込められているそうです。設立当時は、現代とは、違って女性は仕事というより、家事をやるべきだという考え方がまだあったことを良妻賢母という考え方からも読み解けました。

参加する前はウィキペディアにはあまり触れたことなく、だからウィキペディアタウンということがあんまりよくわかっていなかったです。大宮高校の歴史が知れるって聞いたときに、どういうものなのだろうって、ずっとワクワクしながら、結構楽しいと思いました。調べているうちに新しく知ることもたくさんあって、何か「へぇ(驚き)」っていう感じでした。参加してみて楽しかったです。

中村綾さん(大宮高等学校:1年)

音楽部(吹奏楽)に所属しているのですが、演奏会があって、そこに卒業生の方が来てくださいました。52歳の先輩で、もうすごい年齢が離れているのですが、当時の高校時代の話を伺いました。「僕の時は男子と女子が分かれていて、男子が8クラスくらいあって、女子が2クラスだったんだよ」という話をしていたことを資料を読んでいて、思い出しました。つい、気になって調べてしまいました。

実際調べてみて、男子と女子の完全共学化にして欲しい生徒が、生徒会の顧問教諭に抗議するという記述を発見しました。反対派もいたらしいのですが、やっぱり同じ校舎にいるからには、同じ教室にいたいのかなと思いました。

イベントに参加してみて、まだ高校に入って数カ月しか経ってないので、歴史以前に全然知らないことが多いのですが、学校の廊下には簡単に歴史が掲示してあり、女子校と男子校が統合したことの記述があったかな、という程度では知っていたのですが、女子高がどんな感じでできて、男子高が、もともと片倉製糸やさいたま新都心の商業施設「コクーン」とつながりがあったことなど、学校の歴史のもっと深いところまで知れたのが面白かったです。

佐久間理子さん(大宮高等学校:1年)

教員・司書が抱いた感想

学校側から初回に参加した教員・司書の皆さんからも感想を頂いた。参加した全員が「ウィキペディア」を読んだことがあるとはいうものの、その情報を発信の仕方について学ぶことができた絶好の機会であったのだろう。

ウィキペディアタウンという取り組みを知り、学校でもやってみたいという思いに賛同してくれた多くの方に協力していただき本番を迎えました。 今回は学校の沿革の更新を目指し『学校の歴史』をメインテーマに据えましたが、生徒も初めて見る古い文献に、興味深そうに没頭していました。インターネットの情報だけでなく、紙の資料を読むことの面白さを感じていたように思います。私自身も知らなかったことや初めて見る資料も多く、学ぶことがたくさんありました。今後は街歩きをしながらのフィールドワークなどに繋げていきたいと考えており、生徒たちに地域のことを学ぶ魅力も伝えていきたいと思います。

田中里奈さん(大宮高等学校:教員)

学校のウィキペディア記事の更新ということで学校の資料を集めましたが、二次資料の基準にかなり迷わされました。結局、市史や県史等を使用した周年誌が使えることがわかりほっとしましたが、ウィキペディアの出典基準では学校の記事を更新するのは難しいことを知りました。一次資料も、と提案いただいたおかげで紙資料だけでなく、90年以上前の卒業アルバムや今はない学校新聞などもみんなで興味深く見ていました。 調べたことをすぐアウトプットできる楽しさと緊張感がある今回の取り組みはいい経験だったと思います。次回があれば、インターネット情報で更新する事にも挑戦してみてほしいです。紙資料とは全く違う項目を見ることになって、違いが鮮明になるのではと思います。

穂積絵理子さん(大宮高等学校:学校司書)

今回初めてウィキペディアタウンの取り組みに学校として参加させていただきまし た。生徒は日頃、自分の学校がある地域についての郷土史を読み込む機会はなかなかありません。しかし今回、日常的に使用しているウィキペディアを「自分たちが更新する」ということが活動への大きなモチベーションになっていたと思います。実際、こちらが想像していた以上に、彼らは熱心に古い資料を読み込み、新たな気づきや発見が多くあったようでした。探究学習において、まずはそのテーマにおける先行研究をきちんと知ることが大切ですが、どうしても書籍にアクセスさせる難しさを私自身が感じていました。ウィキペディアタウンは、その点を楽しみながら補うことができる、非常に良い取り組みだと感じました。ありがとうございました。

石田美佳さん(不動岡高等学校:教員)

当日の生徒の様子では、同じ題材を取り扱ったものでも資料ごとの細かい違いに気づき、班内で議論している姿が印象的でした。 生徒たちは、世界中の人が閲覧可能なウィキペディアの更新を通じて、正確な情報を相手に伝えることの責任感や難しさ、そしてやりがいを学べたように感じます。 司書としては、普段あまり生徒に手に取られない郷土資料が活躍していたのを見られたのが嬉しかったです。 今後は、調べたい事柄によって紙とネットの情報をうまく選択していくことで、より研究が深まるのではないかと期待しています。

今回、まずウィキペディアが編集できるっていうことから知って、調べていく中で自分の知識が深まっていくのを感じた。またやりたいなと思うとともに、簡単に編集することができてしまうのでインターネットの使い方には、もっと気をつけていけたらいいなと思った。

藺草美奈さん(不動岡高等学校:学校司書)

継続した取り組みに

新型コロナウイルス感染症の感染状況なども含めて、学校側は2回目の開催を模索した。その結果、11月23日に第2回目を開催することを決定した。開催にあたっては、かなりの人数が参加するということとなった。開催当日にウィキペディアの執筆についてサポートできるマンパワーが不足すると考え、日本におけるシビックテックに関する活動を行っているCode for SAITAMAの社会人や大学生メンバーにご協力をいただくこととした。ご協力いただいた方々には、参加者と一緒に楽しみながら、当日サポートスタッフとして参加してもらった。一部の方は、以前埼玉県熊谷市で開催されたウィキペディアタウンで記事を執筆していたことから、当日の支援体制にとっては、かなり大きな力となった。

前回は、教員や学校司書・ウィキペディアン側が企画を回していく形式としていたが、2回目の開催に向けては、第1回で編集を経験した高校生も多くいたことから、両校の一部の生徒たちには、運営側として参画してもらい、高校生主体で当日運営してもらうこととした。これによって、高校生が楽しむための企画・準備・運営となることを目指した。実際には、当日の受付から司会進行や原稿作成、資料収集、エディッタソンで取り扱うテーマの決定までを高校生が主体として担いながら、教員や学校司書も伴走した。公式な打ち合わせ以外でも、SNSを使って双方で連絡を取り合いながら、開催当日に向けて準備を重ねていった。

準備を進める中、記事の題材として、今回の会場であるさいたま市大宮図書館近くにある「氷川神社」の祭事である[[大湯祭]](だいとうさい)と、大宮の発展に大きく寄与した人物である[[白井助七]]を選んだ。当初、彼らがこの題材を選択してきた際は、教員も自分を含めたサポートスタッフも実際に資料が集まるのか、また記事の執筆までたどり着くことができるのか、大人の参加者もいるものの、不安が大きかった。しかし、町歩きが終わり、作業時間に突入すると高校生は自分の手で資料を取り、わからないところは一緒に参加した大人たちに質問することで、執筆作業を続けていった。

それぞれの準備が推進された結果、対面で開催できたということもさることながら、双方の生徒や地域関係者などを約30名が参加して開催することができた。

File:Wikipedia Town OMIYA vol.1 2022-11-23 (1) as.jpg on commons.wikimedia.org / Photo by Araisyohei / CC-BY-SA-4.0

毎度のことだが、エディッタソンは、常に時間との勝負であり、制限時間が来ると強制的に執筆が打ち切らざるを得なくなってしまう。その制限時間の中で、いかに資料を読み切り、文章にまとめていくのかという課題は、高校生にとっては難題ではと思っていた。しかし、SNSが発達したZ世代の高校生たちはその点に対する拒絶感は、あまりなかったようだ。

オフラインで初めて面会した生徒たちは、かなり楽しんだようだ。感想発表した生徒たちは、このように語った。

  • まちあるきをしたが、ディープな大宮を知ることが出来た。友達とカフェにも行けたので充実した1日になった。
  • 生徒主体で準備が出来たのでやりがいがあった。
  • 今後はもっと参加者を増やしていければ、楽しくなるのではないかと思っている。

また、参加した各校の教員にも感想を聞いたが、今後に向けての示唆が多く含まれていた。

生徒の皆さんから面白かった情報をこれまで聞いていて、興味を持っていた。実際に参加してみて、素直に楽しかった。実際にウィキペディアを見るのが好きで、こうやって作っているんだ、とはいえ、文献少ないな、という感想を持った。大宮の町を歩いたり、資料を読んだりして、ここまで労力がかかっているんだということが、みんなが参加して作ったことが印象深かった。資料を作ること、調べて出してもらうこと、多くのことを認識した時間だった。

不動岡高等学校:森彩さん(教員)

長い期間を大宮で過ごしているが、知らないことが多かった。新たな発見も多かった。自分からこれって何だろう、と思って資料を調べていくという学修スタイルもいいなと思った。自分が歩いたことを自分で調べること、疑問を持つ、深く知るということが後の時代につながっていくと感じた。同時に、歩いて、調べるという活動は今後も継続していく必要がある。

大宮高等学校:小島千晶さん(教員)

会場で「情報が生まれる現場だね」という話をしていた。午前中の町歩きで「地域を見る目を肥やしましょう」ということで、明日から修学旅行で九州・山陽を各地転々と回っていく。その土地の歴史だったり、その視点を持つことで、人生楽しくなる。通学も楽しくなる。

さいたま市立浦和高等学校:藤城友昭さん(教員)

県立図書館・不動岡高校司書として勤務経験がある大学教員の長谷川優子さんは「今日この場で皆さんの手によって、地域の資料がもう一度新しい命をもらった。情報がここから生まれていく。一人の巨人のように見える情報も、ひとりひとりの手で大きくなっていく。」とコメントした。

さいごに

現在、日本においては、若年層も含めた国民に対する「生涯学習の推進」として、地域・社会が一体となって学びの場を提供することが掲げられており、昨今のウィキメディア・プロジェクトとGLAMが連携した各種事業の展開は「生涯学習と社会・地域社会の活性化」に結びつく。

埼玉県立大宮高等学校と不動岡高等学校が連携したウィキペディアタウン、初回はそれぞれの学校をオンラインで接続して開催し、2回目は大宮高等学校が所在する大宮区で開催された。

次回、3回目に向けてのビジョンを担当した教員に尋ねたところ「2023年は県立不動岡高等学校が所在する加須市で開催したい」とのことだ。両校の距離は直線距離で20キロメートル以上あり、電車で移動すると1時間程度離れている。とはいうものの、両校の教員・生徒の双方が交流し、町の歴史を自分たちで学び・調べてウィキペディアの記事として公開するということは、シティズンシップ教育の観点に限らず、ピア・ツー・ピア教育の視点からも大変意義がある活動となるだろう。このような活動が継続できるような仕組みを構築することも、ウィキメディア財団が示す教育に関する運動戦略の一つになり得ると考える。そのような中で、ウィキメディアンがどのような協力ができるのか、もしくはするべきなのかを今後も模索していきたい。

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