ウィキペディアンの Eugene Ormandy と Takenari Higuchi が、2023年2月のウィキペディアの動向を振り返るオンライン対談を行いました。なお、前月の対談は以下のとおり。
登場人物紹介
Eugene Ormandy
稲門ウィキペディアン会のメンバー。編集分野はクラシック音楽の演奏家、喫茶店など。2023年2月の印象に残った音楽は、GloRilla のシングル “Internet Trolls.”
Takenari Higuchi
早稲田Wikipedianサークルのメンバー。編集分野はイスラーム、歴史、ポップカルチャーなど。2023年2月の印象に残った音楽は、荻野目天獄のシングル “Labyrinth.”
今月のニュース
Takenari Higuchi
今月はやはり、パキスタン政府によるウィキペディアへのアクセス制限が強く印象に残りました。既に解除されたとのことですが、先月もアフガニスタンで同様の事例がありましたし、国家によるウィキペディアの規制が続きますね。
また、この1ヶ月で急速に台頭した人工知能に関するニュースも気になりました。例えば英語版ウィキペディアでは、人工知能が作成した記事がドラフトで差し止められています。
- 事例1 [[Draft:Cow Farts]]
- 事例2 [[Draft:Brisbane Lord Mayor YAC]]
英語版ウィキペディアにおける記事投稿はレビュー制となっているため、レビュー前のドラフトの段階で食い止められたようです。もしかしたら、日本語版ウィキペディアでも同様の制度を検討する必要があるのかもしれないなと思いました。
Eugene Ormandy
人工知能は文章校正などは上手くこなしますが、ゼロから回答を作成させた場合、デタラメな出典を提示したり、事実無根のことを述べたりしますからね。私も色々と試しましたが、冷や汗が出ました。なお、人工知能とウィキペディアの関係については、英語版ウィキペディアの新聞プロジェクト “Wikipedia Signpost” でも取り上げられていましたね。
- [[Wikipedia:Wikipedia Signpost/2023-02-20/News and notes]]
- [[Wikipedia:Wikipedia Signpost/2023-02-04/News and notes]]
Takenari Higuchi
今後の動向を注視したいと思います。
Eugene Ormandy
私が印象に残ったニュースは、アメリカ国家安全保障局 (NSA) が行っているインターネット監視に対する、ウィキメディア財団の審査請求を、合衆国最高裁判所が退けたことですね。ウィキメディア財団は、アメリカ自由人権協会、Knight First Amendment Institute とともに、このような監視はプライバシーの侵害だと主張しています。
なお、ウィキメディア財団は、アメリカ合衆国に限らず世界各国のインターネット規制の動向をチェックしているようです。例えば2019年には、欧州司法裁判所による「EU圏内で認められた忘れられる権利は、EU圏外には適用されない」という判断を歓迎する声明を発表しています。
Takenari Higuchi
2022年には、7つのウィキメディア国別協会が、国際連合の専門機関である世界知的所有権機関の「パーマネント・オブザーバー」に立候補していましたね。「ディスインフォメーションを広めている」という理由で中国が反対し、却下されましたが。
今月の編集活動
Takenari Higuchi
今月は「モスク」という記事の下書きを準備しました。これまで私は、[[クルアーンの日本語訳]] や [[日本におけるアフマディーヤ]] など、いわゆるマイナーなトピックについての記事を主に編集していたのですが、ウィキペディアはもはや社会インフラとして機能している以上、多くの人が目にする重要な項目も整備しなければいけないなと思ったからです。なお、「モスク」は「すべての言語版にあるべき項目」に指定されています。
Eugene Ormandy
頼もしい限りです。なお、今月 Takenari さんは、『三省堂国語辞典』の編集委員である飯間浩明先生との勉強会を早稲田Wikipedianサークルで開催されたほか、ウィキペディアンの逃亡者さんと対談されるなど大活躍でしたよね。こちらについてはいかがでしたか。
Takenari Higuchi
飯間先生との勉強会は大変参考になりました。特に「下位概念を知った人がアクセスすることを想定した上で、上位概念を執筆する」という姿勢に感銘を受けました。例えば『三省堂国語辞典』の「キリスト教」の語釈は、「受洗」などキリスト教に由来する言葉の項目からアクセスされることを前提とした必要最低限のものになっているそうです。これはウィキペディアの大項目の執筆に応用できるなと感じましたね。
逃亡者さんとの対談も楽しかったです。活動分野、モチベーションともに異なる大先輩とお話しできて、非常に刺激的でした。
Eugene Ormandy
私は [[レオ・ブレッヒ]] という指揮者の記事を加筆しました。ブレッヒについて調べていたわけではなかったのですが、読んでいた本にたまたま登場したのでサクッと追記しました。1文しか書いていないので、所要時間は3分程度ですね。ただ、国立国会図書館サーチで「レオ・ブレッヒ」と検索してもヒットしない文献(『ジョージ・セル 音楽の生涯』)を追記できたので、やりがいを感じました。
また、ウィキメディア財団の公式ブログ Diff にいくつか記事を寄稿しました。最近はこちらの活動の方がメインですね。ウィキペディアに関する言説や、ウィキペディアンのオーラル・ヒストリーをアーカイブすることは重要だと思うので。
Takenari Higuchi
「調査を目的として手に取ったわけではない本を使って、ウィキペディアに小規模加筆をする」という姿勢って、すごく大事ですよね。私は「一定量の加筆をするぞ」と意気込んで、網羅的に資料を集めることが多いので、「ふとした時の小規模加筆」をしそびれるんですよね。
Eugene Ormandy
私も同じです。あと、ウィキペディアの編集に時間を割くようになると、ウィキペディア用の本しか読まなくなっちゃいますよね。
Takenari Higuchi
とてもよくわかります。
Eugene Ormandy
このままだと生活全てがウィキペディアに飲み込まれちゃうなと思ったので、最近は意識的に、ウィキペディアの編集に全く関係ない本を読むようにしています。
今月の気になった記事
Takenari Higuchi
先日対談をした逃亡者さんが立項された [[ギャルピース]] は素晴らしいと思いました。また、英語版ウィキペディアの [[Erdoğan–Gollum comparison trials]] という記事も印象に残っています。この記事は「エルドアン大統領は『指輪物語』の登場人物ゴクリにそっくりだ」という風刺に対して起こされた裁判について解説しているのですが、トルコにおける表現の自由の制限について、ユーモアを交えつつ説明した良い記事だと感じました。
なお、トルコにおける表現規制はウィキペディアにも及んでいて、2017年から2020年にかけてアクセスが禁止されています。
Eugene Ormandy
私が印象に残ったのは、新設されたポータル [[Portal:極地]] ですね。極地に関する様々な記事が収録されており、興味深いです。
まとめ
2023年2月のウィキペディアについて、気になったニュース、編集した記事、気になった記事という3つの観点から振り返りました。
国家によるウィキペディア規制に関するニュースが続きますね。来月はこのようなことがないよう願うばかりです。
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