「Wikipediaブンガク9小津安二郎」開催報告

2023年4月23日、「Wikipediaブンガク9 小津安二郎」を開催した。「Wikipediaブンガク」は、ウィキペディアタウンにおける“まちあるき”の代わりに、日本・横浜にある神奈川近代文学館の企画展を観覧し、展示にちなんだ内容について神奈川県立図書館で所蔵している資料を中心に調べてウィキペディアの記事を書く、というイベントである。

開催にあたってはウィキメディア財団の助成を受けている。本稿ではイベントの様子について報告する。

イベント概要と助成金

「Wikipediaブンガク」概要とウィキメディア財団の助成金申請についてはこちらの記事に書いた通りである。

過去2年分の助成金の残金である¥46,213(申請時:$358.12)を活用するため、迅速助成金申請を行った。2022年4月から申請方法が変更になったことを受けて、専用サイトFluxxから申請した。申請可能な期間が決まっており、2023年4月に開催予定の「Wikipediaブンガク」に間に合うよう、サイクル7(2023年1月30日–3月20日)にあわせて1月中に手続した。申請の様式や内容が変わったため、いくつかの文章を新たに書いたり指標を提示したりする必要があり、少々手こずったものの、3月下旬に無事承認された。

イベント開催経緯

「Wikipediaブンガク」を始めた経緯については、メールマガジン「ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG)」683号にも寄稿したとおりだ。

^ “羅針盤「『Wikipediaブンガク』をやってみた」”. ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG)683号. 2020年10月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月24日閲覧。

また、第1回・第2回の開催レポートは『LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド』第25巻に掲載されている。

田子環「文学に特化した日本初の試み「Wikipedia ブンガク」」『LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド』第25巻、アカデミック・リソース・ガイド(ARG)、2019年、100-101頁、ISBN 978-4-908515-24-8、ISSN 2187-4115。

第1回・第2回では、調査執筆にあたって神奈川近代文学館の所蔵資料と持ち込み資料を活用した。しかし、神奈川近代文学館では、資料が置いてある閲覧室がイベント会場である中会議室とは別棟にあり、資料の持ち出しができず複写のみ可能であること、閲覧室に一度に入室できる人数に限りがあることなど、文献調査に難があった。公共図書館の協力が得られれば、より充実したイベントになると考えて神奈川県立図書館の司書に相談を持ちかけた。

調整の結果、試しに一度やってみよう、ということになり、第3回を神奈川県立図書館主催で開催した。

神奈川県立図書館、「Wikipediaブンガク 松本清張」を開催 | カレントアウェアネス・ポータル”. current.ndl.go.jp. 2019年10月12日閲覧。

山本真帆「神奈川県立図書館でのウィキペディア編集イベントの開催報告」(pdf)『神奈川県立図書館紀要』第14号、神奈川県立図書館、2020年2月、19-40頁、ISSN 0911-3681。

午前中は近代文学館で企画展を観覧、午後は県立図書館に移動して調査執筆、というスタイルがここで確立した。

コロナ禍の影響や、図書館の新棟開館準備の関係で、イレギュラーな開催もあったが、第8回まで回を重ねることができた。編集した記事は8回で延べ83項目である。

イベント準備

「Wikipediaブンガク」は、原則として神奈川近代文学館で春と秋に開催される特別展に合わせて実施している。2023年春の展示テーマが小津安二郎だとわかった段階から、少しずつ第9回の準備を始めた。

内容については、ウィキペディアで小津安二郎に関する記事を読んで内容の充実度や加筆の余地をチェックしたり、まだ記事になっていない人物や項目を洗い出したり、といった作業をした。

すでに[[小津安二郎]]は良質な記事に選出されており、小津が監督した作品もほぼ立項済みであった。関連項目をターゲットにした方がよさそうだと判断し、神奈川県にゆかりのある項目として[[茅ヶ崎館]]と[[松竹大船撮影所]]を候補とした。

イベント前に企画展の下見をして展示内容を確認したあと、当日の執筆テーマを確定して資料をリストアップした。執筆に役立ちそうな書籍、雑誌記事、新聞記事、webサイトなどを調べ上げ、県立図書館で所蔵しているものはイベント当日会場に用意してもらうよう依頼した。新聞記事や、県立図書館で所蔵していない雑誌の記事については、スタッフが手分けして用意した。

日程については、展示会の会期中の土日のいずれかで開催できるよう、文学館、県立図書館、運営スタッフで調整し、2月下旬に決定した。文学館には後援願を、県立図書館には共催事業承認申請書を提出し、いずれも承認を得た。

日程と会場が決まったところで、広報を開始した。Facebookにイベントページをつくり、参加者募集をした。イベントチラシはデータをFacebookのイベントページに掲載するのみで、印刷して配ったり掲示したりはしていない。

Facebookのイベントページ:https://www.facebook.com/events/181243867964890

会場について、前回の第8回は、2022年9月1日に県立図書館本館が新規開館した後、初めてのイベント開催だった。このときは4階にあるグループ学習用のディスカッションルーム(定員8名*3部屋)を借り、可動式の壁面を動かして3部屋をつなげた形で実施した。備え付けの電子黒板やホワイトボードがあり、館内ではWi-Fiも使えて設備としては十分と言えたが、参加者が執筆テーマごとにグループで机を寄せ合って作業したり、集めた資料を並べたり広げたりするにはやや手狭であったことから、今回はより広いオープンスペースである「学び交流エリア」を使わせてもらうことにした。企画展の下見の後に県立図書館で打ち合わせをして、会場のレイアウトなどを確認した。

イベント当日

午前の部は、神奈川近代文学館に集合し、学芸員のギャラリートークを聞き、展覧会を観覧。午後は県立図書館に移動し、図書館の蔵書を活用して記事を執筆した。参加者は15名だった。

午前の部の開会は10:00。文学館は9:30開館で、スタッフも参加者もこの時間以降でないと入館できない。会場の中会議室は、冒頭の説明とギャラリートークを聞くときと、企画展観覧後の再集合のときのみ使用するため、設営にはそれほど時間がかからない。受付に名簿と名札を置き、説明スライド投影用にパソコンをモニターにつなげば準備完了となる。

イベント開始時間となり、講師よりイベントの概要説明。主催者より挨拶。展示を観覧する際に意識してもらえるよう、本日執筆予定のテーマを事前に提示した。

  • 小津安二郎
    • 小津とグルメ
  • 茅ヶ崎館
  • 松竹大船撮影所

10:05ごろからギャラリートーク。今回の企画展を担当した学芸員から展示の見どころについて30分程度で解説していただいた。書簡や日記から読み取れること、今回の調査で発見された新資料、絵コンテの読み解き方などが紹介された。下見の際に展示は一通り見ていたが、解説を聞くと注目ポイントがわかり、改めてじっくり見たい気持ちが湧いてきた。

神奈川近代文学館で学芸員のギャラリートークを拝聴 / File:Wikipediaブンガク9小津安二郎01.jpg on commons.wikimedia.org / Photo by Mayonaka no osanpo / CC-BY-SA-4.0

10:35ごろから企画展観覧。一時間程度の限られた時間ではあるが、参加者には集合時間まで自由に展示を見てもらった。

11:45に中会議室に再集合。今後のスケジュールを説明した後、スタッフの誘導で県立図書館に移動した。バス1本で行けるが、途中で各自昼食をとる必要がある。この日は野毛で大道芸のイベントがあり、混雑が予想されたので、少人数に分かれて適宜食事をした。

午後の部は13:30開始。着席後、まずは自己紹介をした。名前、お昼に食べた物、参加したきっかけ、イベント参加経験について、手短に話してもらった。次に講師よりウィキペディアとは何か、マークアップの方法についての説明。続けて県立図書館スタッフより、資料や図書館の使い方の説明があった。

その後、班分けを行い、事前に提示した3つのテーマのうち、どの記事を執筆したいかを選んでもらい、テーマごとに分かれて座り直し、14:20ごろから調査・執筆を開始した。

  • 小津安二郎 5名
  • 茅ヶ崎館 3名
  • 松竹大船撮影所 5名

コーヒーブレイク

毎回、作業に入ると集中するあまり休憩をとるのも忘れてしまう。今回の会場となった学び交流エリアは「蓋つきの飲み物のみ持ち込み可」なので、図書館1階のコーヒーショップでドリンクを購入して4階まで運ぶことにした。ドリンク代はウィキメディア財団の助成金から支出した。15時ごろにドリンクが手元に届くよう準備していたが、諸事情により間に合わず、最後の振り返りの時間がコーヒーブレイクタイムになった。また、差し入れに用意していたおやつを出し忘れたことを片付けの時になって気がつき、あわてて参加者に配ることになった。

16:05ごろ作業を終了した。まずグループ内で、どんな作業をしたか、どんな資料を使ったか、感想などを話し合った。その後、全体で今日の成果を共有した。リモート参加者からの成果もここで報告した。最後に「今日使った資料」を手に持ち、集合写真を撮影した。いい笑顔になるよう語尾が「い」のフレーズを毎回合言葉にするのだが、「おづやすじろう」は語尾が「う」になるため、今日のキーワードから「うなぎ」を選んだ。

イベント時間内の執筆・加筆項目は次の通り。

振り返り

参加者中、ウィキペディア編集の完全未経験者は1人だった。グループ内にウィキペディア編集経験者が複数おり、適宜サポートができた。無事に初編集をしていただくことができた。

資料や題材は十分あったが、当日手をつけられなかった項目がたくさん残った。「家に帰っても終わらない」のがウィキペディアのエディタソン(by Arai)。これからも少しずつ、加筆を続けていきたい。

イベント後

  • イベント後加筆
  • ウィキペディアメインページ「新しい記事」
    • [[蓬莱屋 (とんかつ店)]] 4/25選出
  • ウィキペディアメインページ「強化記事」
    • [[松竹大船撮影所]] 5/8選出

次回、記念すべき第10回を2023年秋に開催予定である。本稿以外にも、イベント参加レポートが発表されている。この場を借りて御礼申し上げる。