2023年6月9日、東京都港区の三康図書館で、ウィキペディア編集イベント WikipediaSanko を開催しました。本稿では、その経緯・内容をまとめます。
開催までの経緯
WikipediaSanko 開催のきっかけは、私が 2022年5月に大宅壮一文庫で開催した WikipediaOYA でした。
本イベント開催後、研究者の伊藤陽寿さんから「三康図書館の方が WikipediaOYA に興味を示しており、似たようなイベントを開催したいと言っている」というご連絡をいただいたので、企画を進めることになりました。
下見
2022年9月、数人で三康図書館の下見を行いました。参加したのは、上述の伊藤さん、ベテランウィキペディアンのさえぼーさんとのりまきさん、そして大宅壮一文庫職員の鴨志田さんです。
なお、職員の方のご厚意で、閉架書庫を見学することもできました。下見の詳しい内容は、ウィキメディア財団のブログ Diff に寄稿した「ウィキペディア編集者が東京都の三康図書館を見学」という記事にまとめています。
企画立案
下見ののち、私と職員の方とで、各種調整を行いました。具体的には、日程や参加人数、イベント内容についてメールで協議しました。
日程は2023年2月10日に決定。また、新型コロナウイルスの流行や、対応できる職員数が限られていることを考慮し、少人数での開催としました。そのため、参加者は公募せず、私が知人に声をかけました。
イベント内容については、①三康図書館の資料を活用したウィキペディアの編集と、②ウィキメディア・コモンズへの投稿という2本立てにしました。
イベント内容に、ウィキメディア・コモンズとの提携も組み込んだのは、正直なところ三康図書館をウィキペディアの編集に活用できるか不安だったからです。
三康図書館は、いわゆる「一次資料」を多く収蔵している図書館です。そのため「二次資料」を参考文献として活用するウィキペディアとは、やや相性が悪いのではないかと感じました。
そこで、著作権の切れた一次資料をカメラで撮影して、ウィキメディア・コモンズにアップロードすることも、イベント内容に組み込もうと考えたのです。
レジュメの作成
事前にレジュメを作成し、参加者にメールで共有しました。レジュメにはタイムスケジュールのほか、イベントの目標や記事執筆の内容について記載しました。以下、抜粋して紹介します。
レジュメ抜粋1. 目標
「三康図書館、ウィキペディア編集者の双方にとってメリットがあるイベントとする」ことを最大の目標とする。そのために、以下の小目標を設定する。
- 編集に役立つ資料・検索システム・レファレンス機能をウィキペディアンに紹介する。
- 三康図書館の資料・検索システム・レファレンス機能を活用して、ウィキペディア記事を編集する。
- 三康図書館の資料をウィキメディア・コモンズにアップロードする。
- ウィキペディア編集を通して三康図書館の魅力を再発見する。
- イベントアーカイブを作成する。
レジュメ抜粋2. 記事執筆
各自が興味のあるトピックについてのレファレンスを行う。もしくは、2022年7月30日に行われた、第2回オンライン講演会「江戸時代の料理本の魅力」の際の資料等を参考に、江戸時代の料理に関する記事を編集する。
今回は1回目の開催であり、編集時間も短いため、恐らく「三康図書館の資料をフル活用して記事をゼロから作りあげる」ことは不可能だと思われる。そのため、三康図書館の資料を活用した小規模な加筆や、各ウィキペディアンが興味のあるトピックについてのレファレンスをメインとする。
大雪による延期
大雪予報のため、残念ながら前日にイベントを中止しました。そこで、再度日程調整を行ない、2023年6月9日に延期することが決定しました。
イベントページの作成
イベント前日、ウィキペディアにイベントページ [[プロジェクト:アウトリーチ/GLAM/WikipediaSanko/第1回]] を作成しました。また、ウィキメディア・コモンズにも [[Commons:Sanko Library/ja]] というページを作成しました。
[[Category:Commons partnerships by country]] には、ウィキメディア・コモンズと提携する各国のGLAMのページが収録されているのですが、日本のページは1つもなかったので、[[Category:Commons partnerships in Japan]] というカテゴリとともに三康図書館のページを作成しました。つまり、三康図書館は、ウィキメディア・コモンズ上にプロジェクトページを作成した、日本初のGLAMということになります。
イベント当日
いよいよイベント当日。ありがたいことに、図書館を貸切にしていただきました。
1. 早入り
イベント開始は13:00でしたが、図書館からは「午前中に来館していただいても構いませんよ」と言われていたので、10:30ごろに伺いました。
他の参加者がまだ来ていない午前中に、図書館資料を用いてウィキペディアを加筆したほか、館内の写真をウィキメディア・コモンズにアップロードしました。というのも、今回のイベントで私は司会進行を担当することになっていたので、イベント中は作業できる時間がほぼないと予想していたからです。せっかくイベントを開催したのに、「成果物」がゼロというのは寂しいので、直前に仕込んでおいたというわけです。
2. 書庫見学
13:00にイベントが始まりました。タイムスケジュール、目標、イベントページについて説明したのち、書庫見学を開始しました。なお、今回も下見の時と同様、職員の方に閉架書庫を案内していただけました。
5つのパートからなる書庫には、子ども向け雑誌、入試問題、戦時中の発禁本、版木、伊能忠敬の下書きといった、様々な種類の種類が収蔵されていました。書庫の様子は撮影可能でしたので、参加者の皆さんは思い思いに写真を撮影されていました。また、「こんな本があった!」という会話を楽しんでいました。
3. 調査・執筆・撮影・レクチャー
14:00ごろ、閲覧室に戻って調査・執筆を開始しました。また、職員の方による確認のもと、著作権が切れている資料を撮影し、ウィキメディア・コモンズにアップロードしました。
今回はある程度編集に慣れたユーザーが集まっていたので、編集方法レクチャーなどは行わず、各自自由に動いていただきました。ウィキペディア記事の執筆をする方、ひたすらウィキメディア・コモンズに写真をアップロードする方、資料収集に専念する方など、様々でした。また、ウィキペディアン同士で執筆の相談をしたり、GLAMとウィキペディアの提携について、図書館の方とディスカッションをしたりしました。図書館が貸切であるおかげで、おしゃべりをしながら楽しく作業ができました。
特筆すべきは、三康図書館の作業環境の快適さです。机はかなり大きく、複数の資料、ノート、PC などをゆったり広げられたので、スムーズに作業ができました。また、電源やフリーWi-Fiも確保されており、ありがたかったです。三康図書館は作業スペースとしても極めて優秀なので、赤羽橋駅近辺で作業場を探している方はぜひ。
また、職員の皆様は、江戸時代の料理本に関する資料や、関東大震災に関する資料を、閲覧室にまとめて置いてくださいました。大変興味深い資料ばかりで、これらはウィキペディア記事の執筆に活用されたり、ウィキメディア・コモンズにアップロードされたりしました。
4. ディスカッション
16:20ごろから17:00にかけて、参加者でふりかえり・ディスカッションを行いました。参加者からの発言は以下のとおりです。
- 執筆題材は決めずに参加したが、なんとか [[○△□ (絵画)]] を立項することができた。
- ウィキペディアとGLAMが連携する意義がわかった。また、ウィキペディアンが実際に調査・執筆をする姿を見ることができてよかった。
- 自分が現在調べていることに関する資料を調達するために参加した。特に雑誌『太陽』は役だった。レファレンスにも対応していただきありがたかった。
- 三康図書館は様々な資料があって魅力的だ。特に、戦前の旅行本は興味深かった。
- イベントでは記事を新規立項する必要があるのではないかと不安だったが、小規模な加筆や画像のアップロードのみでも問題ないと知り、安心した。
- 参加にあたっては、三康図書館のウェブページにある、これまでの取り組みを確認した。
- [[生月鯨太左衛門]] の記事を加筆した。
- 三康図書館の強みである、仏教をテーマとしたエディタソンを行うのも面白いかもしれない。
- 三康図書館の書庫はとても興味深い。隣接する関連書籍を見るのが面白い。
- 三康図書館を利用する際は、調べたいことや、目を通したい資料を事前に決めておくといいかもしれない。
- 今回のイベントでは、資料を撮影して、ウィキメディア・コモンズにアップロードした。撮影は難しかった。特に、資料を手で押さえつつ、カメラを操作するのに難儀した。
- 挿絵の著作者が不明なものもあった。
- 表記ゆれの問題もあった。
- 三康図書館として、ウィキペディアに活用できるようなライセンス(CC-BY-SA など)で資料を公開してほしい。
- 事典や雑誌を活用して、いくつかの記事の小規模加筆を行った。
- 関東大震災の資料として用意されていた雑誌を活用して、音楽家のウィキペディア記事を編集した。雑誌は様々なトピックが収録されているので、このような予想外の使い方ができる。
- 図書館職員が想定する「図書館の使い方」を裏切るような利用者の行動は興味深い。
まとめ
イベントを通して、三康図書館の様々な魅力を引き出せたのではないかと思います。三康図書館の専門分野である仏教については、[[○△□ (絵画)]] という禅画のウィキペディア記事が作成されましたし、三康図書館の豊富な雑誌は、ウィキペディア記事の加筆や調べ物に活用されました。また、ご用意いただいた料理本については、ウィキメディア・コモンズにアップロードされましたし、関東大震災のための資料として用意された雑誌は、予想外にも音楽家のウィキペディア記事に活用されました。
今後の課題は、「三康図書館を活用してできること」を、ウィキペディアン、図書館の双方がより明確に言語化し、それに基づいてイベントのテーマを設定することかなと個人的には感じました。もちろん、参加者による予想外の行動はとても面白いですし、それを妨げる意図は全くないのですが、事前にテーマを明確化できていたら、より刺激的な化学反応が起こったのではないかと思います。今回は、ベテランウィキペディアンの「自分で勝手に面白いトピックを探し出す能力」に、かなり助けられたといえるでしょう。次回以降、改善します。
今回のイベントでは、様々な方にご協力いただきました。ウィキペディアンの皆さん、そして三康図書館の皆さん、本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。
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