8月にポーランドのカトヴィツェで開催されたウィキマニア2024に、日本から参加された6名の方に伺った、ウィキマニアの楽しさや奥深さについてのお話後編です。前半はこちらです。https://diff.wikimedia.org/ja/?p=143599
一番興味深いと思ったことや、他の言語版参加者の問題意識で感じたこと
Eugene Ormandy:ごく大ざっぱに言って、この手の国際会議ではウィキペディアよりも、他のウィキメディア・プロジェクトの方が注目されますね。
もちろん、ウィキペディアそのものを対象としたレクチャーやディスカッションもありますが、いわゆる執筆者的な話、例えばこの分野のウィキペディア記事をどう整備するかという話は少なかったですね。むしろ、リテラシー教育の一環としてウィキペディアをどう使うかとか、いわゆる公権力がウィキペディアに何か異議申し立てをしてきたときにどう対応するかといった、ウィキペディアの二次的利用や社会的な在り方について議論されることのほうが多いと感じました。ウィキペディア記事というコンテンツそのものよりも、そのコンテンツを保持するプラットフォームのほうが注目されているといえるかもしれません。
日本語版ウィキペディアでも、記事の執筆よりも、方針等の議論を中心に活動される人が一定数いらっしゃいますが、そういった方々こそ国際会議に参加してほしいなと個人的には思います。
VZP10224:それは私も同感で。印象に残ったセッション、ウィキペディアの編集をするのに、ゲーミフィケーションの要素、要はゲーム感覚でウィキペディアの記事を書くっていうセッションがあって、そこがすごく、なるほどという。ウィキペディアそのものを編集するんじゃなくて、どういう執筆環境を整えるかっていうところまで、もう既に考えてるっていうところにフォーカスしてるっていうのが、すごく印象的でした。
今だと、日本語版でそれやってるっていうのは、結局、画像をウィキペディアじゃなくてコモンズにアップロードするためのウィザードを作ってる人とか、それぐらいなんですけど、それよりももっと、要は初めて編集する人のチュートリアルみたいなものがゲーム感覚で学べて、違和感なく記事の執筆に参加できると。それが、今の日本語版では、初心者に優しくとかそういったところを言いつつも、全然そういう動線を作っていってないので、もう少しいろいろ考えて、やってみようかなっていうのを今、感じてます。
Eugene:執筆環境を整備することへの関心の高さというのは、いわゆる外部ツールへの関心の高さにも通じるかもしれませんね。日本語および日本のウィキメディア・ムーブメントにおいて外部ツールはあまり使われてないのですが、特に海外の国際会議などでは「ウィキメディアの外部ツールをどうやって使うか?」「普段の編集活動でどうやって使うか?」「初心者に教える際に、どういうガジェットがいいと思うか」といった話が結構登場するんですよね。そういったものは自分も今後、ウィキデータのツールを中心に勉強しておきたいと思います。
北村紗衣:LGBTQ差別に対する関心とかは、多分、日本以外の言語版のほうが強いかなって気がしたとか、その程度ですかね。あと、日本語版は、いろんな意味で閉じてるっていうか、ひとつの言語だけを使う少ない人数でまわしている印象があるんですけども、他の言語版の方々とかは、参加人数が多いとか、他の言語版と触れる機会が多いとかで、やっぱりもうちょっと裾野が広いと思いました。違う言語を使っていたり、違うバックグラウンドから来たりする人たちが結構な数、参加していることを意識して活動していると思いました。
Eugene:国際会議では、ウィキペディアについて言及する際にきちんと「○○語版ウィキペディア」と明確化する人が比較的多い印象があります。ウィキペディアは言語版によって、方針や記事の充実度が全然違うことを理解しているからこそ、さらっと「自分は何とか語版ウィキペディアをやってるんだよね」と言えるのかなと思います。
Narumi.SBT:私、ユーザーグループとかアフィリエイトとかも全然分かんないまま参加していて、現地に着いてからそういうのがあるのねって分かったんです。それを頭に入れてから、アフリカの人たちの話を聞いていたときに、次のウィキマニアもケニアですけれども、アフリカの文脈においてウィキメディア・ムーブメントを捉えたときに、インターネットが常時安定した接続環境になかったり、そもそも国全体がまだ開発途上であったり、そういうことを考えるときに、ユーザーグループみたいな主体があって、そこからのコミュニティーサポートが提供されているっていうことが、すごくアフリカにおけるウィキメディア・ムーブメントにとって意味があるということに合点がいったというか。日本だけの文脈で考えていたときとすごく違う意味を持つことを感じました。その意味で、いろんなオフライン編集ツール・閲覧ツールの意義みたいなものも、日本語版だけを見ていたら、全然感じなかったことだし、それがすごく面白いなと思いました。
あとすごく印象に残ってるのは、ウィキメディアのフォトコンペティションと武力紛争を絡めたラウンドテーブルがすごく面白くて。ウィキメディアと政治的なイシューを絡めた議論の場があるということがすごく興味深いと思いました。
門倉百合子:ウクライナからのオンラインセッションは興味深かったです。WikiOrchestraでウクライナの方と知り合ったこともあり、帰国後Diffに出たウクライナの記事を翻訳しました。
VZP10224:自分がユーザーグループに所属してるっていうのもあるんですけど、ユーザーグループコミュニティーをつくるっていうところがすごい大事なんだろうなっていうのを、すごく今、感じてます。僕もずっとウィキペディアとかを眺めてて、熱意をもって参加していたはずなのに、力尽きていく人たちを見てきて、そういう人たちが一人で悩まずに、ウィキメディアのことに関して気軽に話ができる仲間っていうのをつくらないと、いけないなあと思いました。今、アクティブに動いてる管理者の人、何人かいるんですけど、そういう人たちを本当に巻き込んでいってやっていかないと、本当にこのコミュニティーが持続しないということを感じました。
Takehiko:今回、海外の人たちのお話とかを聞いてて思うのは、日本だとやっぱりウィキメディアっていう言葉自体も、多分、ほとんどの人が知らない。ウィキメディアというか、ウィキペディアにまずなって、ウィキペディアになると、割と自分が知ってることについて編集するっていう、そこが大体の人の意識なんじゃないかなと思います。
ただ、今回、参加して、他のウィクショナリーとか、写真をコモンズにアップするとかっていう、いろいろな活動を目にすると、何となく自分でも、僕の友人、これだったら興味ありそうだなとか、こういうのだったら、別に文章を書くとかではないけど、もっとコンピューターのほうからとか、芸術のほうからとかっていうような感じで、参加し得る友人とかが思い付くんです。今までなかった視点なので、もう少し敷居を下げるというか、もっといろんなルートがあるんだっていうことが示せれば、ちょっと変わるのかなと思います。
VZP10224:そうですね。日本で今、アウトリーチ活動をやってる人たちはたくさんいるんですけど、その人たちも結局、ウィキペディアにこだわっちゃってるっていうのがすごく感じています。
Eugene:私も似たような問題意識はありますね。そのため、今度大阪府の泉大津市立図書館で地域情報をテーマとしたレクチャーを実施する際には、可能な限りウィキメディア・コモンズやウィキデータ、さらにはウィクショナリー、ウィキブックスについても言及しようと思っています。
VZP10224:それこそ、地域の公共図書館とかで活動されている方とかに、ウィキペディアタウンをやりたいけど、ネタがないんだよねって言われたときに、いや、そうじゃなくてっていうことを、示していかないといけないんだろうとは思います。
Eugene:どのウィキメディア・プロジェクトを対象とする場合であれ、ネタ探しはそれぞれ違った難しさは必要になるとは思うのですがね。
ウィキメディア運動やウィキメディア関連で、一番興味があることや課題
北村:今回、中国大陸から来た中文版の方に会った方はおられますかってお聞きしたら、誰もいなくって、ほとんど香港とか台湾だったっていう話がありました。それで、中文版はあれだけ大きい言語文化が背景にあるのに、中国大陸の人が全然、活発に参加できない状況なのは、とてもつらいものがありますね。
VZP10224:5月のESEAPでは、大陸から来た人が1人いましたね。
Eugene:私が興味を持ってるのはウィキメディア・ムーブメントのドキュメンテーション、つまり記録ですね。ウィキメディア・プロジェクトはきわめてユニークで、間違いなくインターネットの歴史に残る活動なので、後世の人間の検証活動のためにも、史料を作成しておかねばと思っています。具体的には、自分が開催したイベントの一次資料を作ったり、他のウィキメディアンによる一次資料をまとめた二次資料を整備しておきたいですね。私はそのような思いで、ウィキメディア財団の運営するブログメディアDiffにエッセイを寄稿しています。
門倉:図書館総合展っていうのが11月にあって、「ウィキメディア・ムーブメントの今」っていうタイトルで話すんです。私は前から、ウィキメディア・ムーブメントの全体像っていうのを知りたいと思っていたんですけど、やっぱり全体像は、とてもじゃないけど難しい。だから自分で関わった部分を中心に、何か話すことをまとめるしかないと思ってます。それに向けて、Diffを書いたり記事を翻訳したりしてるんです。
『ウィキペディア・レボリューション』っていう本を書いた方が、たまたまWikiOrchestraで隣にいらっしゃったもんですから、昨日と今日と2日かけてこの本を読み終わったんですが、もう、びっくりしちゃって。こんな本があったんだって、もう15年も前の本ですけどね。今はもっと変わってる部分ももちろんあるでしょうけど、ウィキメディアの理念っていうのは変わってない。この本は厚いこともあるし、索引がない、私はきっとオリジナルには索引があったんじゃないかと思うんですけど。
Takehiko:僕は英語版持ってます。索引がちゃんとあります。
門倉:やっぱりね。私、そういうのがあると便利だし。そういう情報をもっと分かりやすく日本の人に提供していくと、もっとウィキメディアのことが理解してもらえるのかと、私としてできることはそういうことかな、みたいな気がしています。
Narumi.SBT:私からすると、組織の全体像が難し過ぎるというか、複雑過ぎるというか。今回、ウィキマニアに行って、直接お話聞いてようやく分かりましたけど、文字だけだと、日本で1人でいるときに、全然よく分からなかったんです。あまりに複雑過ぎるので、どこにどう関わっていけるか分からないという感覚がありました。組織像についての平易な解説が欲しいとか思ったりはします。
あと、最終日に、Takehikoさんとレセプション会場でお話をしていたときに、日本のウィキメディアの玄人感というか、素人が一人で続けられないみたいなところというようなことを話していて。マイルドな中間層みたいなものがもっと厚くなったほうがいいんじゃないかみたいなことを、Takehikoさんとお話しした記憶があります。その方が、サステナブルなんじゃないかなと思ったりしてます。
VZP10224:自分はやっぱり、一番興味があることは、他の地域なり国なりのユーザーグループ的な団体、コミュニティーがどういう形で持続させていくかというのを、ちょっと考えていかないといけないとは今、思ってます。グループでは毎年、要はこんな活動をやった、効果はどうだった、みたいなものを求められています。その中で、今はまだ1年目、2年目なので、あれこれやりましたみたいな報告だけで済んでると思うんですけど、これを継続していく中で、私は民間企業だから特に思うのかもしれないんですけど、成果がどれだけ出たかを、やっぱり今後は問われてくると思います。なので、成果を出すために、どうしていけばいいのか。
Takehiko:ウィキペディアとかウィキメディア、今回のウィキマニアに参加しても思ったことなんですけど、 sum of all human knowledge、全ての人々のみたいな、割と大きな旗印を掲げて、そういうのに参加しようと思っちゃうと、そういうのが先に出ちゃうと、割と入りづらいっていうところもあるし、みんな重くなってしまうと思うんです。
僕なんかも、先ほど、Narumi.SBTさんとレセプションで話してたこととも関わってくるんですけれども、何となく、今の感じで言うと、取りあえず1日1エディット、なんかちょっと手を動かして、違うものをちょっといじってみよう、みたいな形のほうが、変に人権とか、そういうことも、もちろん大切ではあるっていうのは重々承知してるんですけれども、そういうイデオロギーとかっていうよりも、ちょっと手を動かそうよっていうところのほうが、より重要なのかなという感じは。特に僕なんかは、割とそういう人間なので。自分で分かる所しかできないので、そういったアプローチも大切なのかとは思います。
本日はウィキマニアをめぐって、様々な観点からの貴重なお話をどうもありがとうございました。(2024年9月9日、Zoomにて収録)
※ウィキマニア2025の助成金応募が始まっていますので、ぜひこちらもご覧ください(締め切りは2024年12月8日)。
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