興味がないトピックに関するウィキペディア記事を編集する理由

本稿では、私が今まで編集した、興味がないトピックに関するウィキペディア記事や、そのような記事を編集した理由を紹介します。ウィキペディアンのモチベーションを分析するための参考資料の1つになれば幸いです。

私はフルーツが嫌いなのですが、[[フルーツサンド]] というウィキペディア記事を立項しています。もちろん一度も食べたことはありません。Wikimedia Commons [[File:Fruit sandwich in Da-cafe, Tokyo 2022-06-29 as(1).jpg]] (Araisyohei, CC-BY 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Fruit_sandwich_in_Da-cafe,_Tokyo_2022-06-29_as(1).jpg

今まで編集した記事

私はクラシック音楽や喫茶文化に関心があるウィキペディアンで、[[アルトゥール・ニキシュ]] といった指揮者の記事や、[[名曲喫茶クラシック]], [[どん底 (飲食店)]] といった喫茶店・飲食店の記事を主に作成しています。

その一方で、関心分野以外の記事も編集しています。例えば、私はマレーシアの山 [[タハン山]] の記事を立項していますが、マレーシアに行ったことはありませんし、登山にはあまり興味がありません。また、フルーツ嫌いであるにもかかわらず [[フルーツサンド]] という記事を立項しています。言うまでもなく、フルーツサンドは一度も食べたことがありませんし、今後も食べるつもりは一切ありません。

興味がないトピックに関するウィキペディア記事を編集する理由

上述のような「興味がない」記事を編集する理由は3つあります。

理由1 調査・執筆スキルを向上させるため

1つ目は、自分の調査・執筆スキルを向上させるためです。

自分が好きなものや、よく知っているものについての記事を編集するのは、比較的容易です。なぜなら「〜について書こう」と思った段階で、ウィキペディアに記載するべき基本的な情報が頭に浮かぶからです。例えば私の場合、著名な指揮者であれば、出身国、頻繁に指揮したオーケストラ、有名な録音、音楽評論家による評価などをすぐ思い浮かべることができますし、ウィキペディアに活用できる資料を少なくとも5つは挙げられます。

一方、興味のないトピックはそうもいきません。前提知識が全くないからです。そのため、調査の方法や、記事の構成をよく考えないと、記事を編集できません。こういった「ショートカット」ができない記事を編集するのは、もちろん大変です。しかし、自分の調査・執筆スキルを検証・向上させる良い機会でもあります。

理由2 調査・執筆の過程を言語化するため

興味がない記事を編集する2つ目の理由は、調査・執筆の過程を言語化しやすいからです。

理由1で述べたように、興味がないトピックに関するウィキペディア記事を編集する際は、調査の方法や、記事の構成をよく考えなくてはいけません。これはすなわち、調査・執筆の方法を言語化しなくてはいけないということを意味します。

少し話が逸れますが、私は「調査・執筆などのウィキペディアンの編集行動は、きちんと言語化され、記録に残されるべき」と感じています。なぜならそういった記録は、ウィキペディアという世界最大級のメディアが整備された過程を分析するための参考資料になりますし、初心者がウィキペディアに参入する際のマニュアルとしても機能するからです。

そのような問題意識を抱いている人間にとって、興味がないトピックに関するウィキペディア記事の編集は、非常に魅力的です。なぜなら、ウィキペディア記事を編集する段階で既に、調査・執筆プロセスを完全に言語化できているからです。つまり、一石二鳥というわけですね。

なお、興味がないトピックに関するウィキペディア記事を私が編集した時の調査・執筆プロセスは、ウィキメディア財団のブログ Diff にまとめているので、ご興味がある方はどうぞ。

理由3 興味があるものについて書くのは難しいから

3つ目の理由は、興味があるものについてウィキペディアに書くのは難しいからです。まずは、日本語版ウィキペディア [[Wikipedia:エチケット]] を引用します。

あまりにも情熱を持っている事柄については執筆を避けてください。このルールは中立的な記事を書くためのものです。偏っているときに中立になることは難しいのです。

日本語版ウィキペディア [[Wikipedia:エチケット]] (2023年2月27日 (月) 12:59 (UTC) 版) より引用

補足します。ウィキペディアにはいくつかの約束事がありますが、代表的なものに [[Wikipedia:中立的な観点]] と[[Wikipedia:独自研究は載せない]] という方針があります。これはその名のとおり、ウィキペディアの記述は中立的なものでなくてはならないし、資料に書いていないウィキペディアン独自の考えは記載するべきではないという内容です(もちろん現状これらが完全に達成されているとは言えませんし、そもそも真の中立など不可能であることは重々承知していますが、このような理念が掲げられること自体が重要だと私は感じています)。

引用文のとおり、あまりにも情熱を持っている事柄について、中立的に、しかも独自研究を避けて書くのは、実はかなり難しいことです。もちろん不可能ではありませんが、文章の書き方、構成、資料の選び方(細かいことを言えば「どの資料を使わないか」)に注意を払う必要があります。また、資料に残っていない裏話や噂話は、いったん忘れる必要があるでしょう。

興味がない事柄に関するウィキペディア記事を編集する場合、このような問題は生じません。なぜなら、そもそも前提知識がないからです。ただひたすら資料に書かれていることを把握し、まとめるだけでよいのです。

まとめ

本稿では、興味のないトピックに関するウィキペディア記事を編集する理由を紹介しました。なお、ウィキペディアンは多様であり、そのモチベーションは様々であること、そして本稿で紹介した事例は、あくまで私個人の感想であることにご留意ください。