2023年6月のウィキペディアを振り返る

ウィキペディアンの Eugene Ormandy と Takenari Higuchi が、2023年6月のウィキペディアの動向を振り返るオンライン対談を行いました。なお、前月の対談は以下のとおりです。

Eugene Ormandy

稲門ウィキペディアン会のメンバー。編集分野はクラシック音楽の演奏家、喫茶店など。2023年6月の印象に残った音楽(およびダンスパフォーマンス)は、Glastonbury Festival 2023 で Sparks が演奏した “The Girl Is Crying In Her Latte.”

Takenari Higuchi

早稲田Wikipedianサークルのメンバー。編集分野はイスラーム、歴史、ポップカルチャーなど。2023年6月の印象に残った音楽はSunamiのアルバム “Sunami (L.P.).”

2023年6月の気になったニュース

Takenari Higuchi

今月気になったのは、機械翻訳 MinT に関する記事ですね。ウィキメディア財団は機械翻訳を推進する立場ですが、私は賛同できません。言語による情報格差を解消したいという理念には賛同しますが。

Eugene Ormandy

機械翻訳の問題は根深いですよね。実際、日本語版ではユーザーのリクエストにより、コンテンツ翻訳から機械翻訳の機能が除去されましたし。私も機械翻訳の推進には反対です。

Takenari Higuchi

今後も注視したいですね。

なお、今月公開された、早稲田WikipedianサークルUraniwa さんとコヨミヤさんによる対談記事も印象に残りました。「ある記事の構成を直そうと思った」「図書館で読んだ本を活用したいと思った」というモチベーションは素敵だなと思いました。

Eugene Ormandy

おふたりとも大変優秀ですよね!

Takenari Higuchi

本当に。今後の活躍も楽しみにしています。Eugene さんは、どんなニュースが気になりましたか。

Eugene Ormandy

5つあります。1つ目は、ウィキメディア財団が、自身の20年の歩みを振り返る記事を公開したことですね。短い記事ですが、よくまとまっていると思います。「ウィキペディア以外のプロジェクトの動向が詳しく書かれていない」「世界各地のウィキメディアンの動向が記述できていない」といった批判はいくらでもできますが、財団の大まかな歴史を知るための記事としては、かなり秀逸だと思います。

2つ目は、イギリスにおける Online Safety Bill と、それを受けたウィキメディア財団の動向ですね。4月の対談でもお話ししたように、この法案が可決された場合、ウィキペディアがイギリスで閲覧できなくなる恐れがあります。これまでも財団は様々な反対声明を発表していましたが、6月にも “Protect the future of Wikipedia in the UK” という記事を公開しました。また、6月末には Wikimedia UK がオープンレターを作成し、署名を集め始めています。なお、この対談を行っている6月30日時点で、Online Safety Bill は貴族院の “Report stage” にあるとのことです。

3つ目は、日本語版ウィキペディアで活躍するのりまきさんが、[[利用者:のりまき/共楽館のおはなし]] という執筆レポートを作成されたことですね。このレポートでは、[[共楽館]] という記事を執筆した経緯や、記事のポイントなどがまとめられています。のりまきさんのような優秀なウィキペディアンのレポートは、大変貴重だと思います。ウィキペディアに関する研究の一次資料としても役立つことでしょう。

ちなみに、私もいくつか執筆レポートを作成しているのですが、のりまきさんのレポートとは、かなりテイストが異なります。具体的には、のりまきさんが執筆対象そのものの説明を重視するのに対し、私は調査・執筆方法の説明に重きを置いています。このような比較をより多角的に行うためにも、様々なウィキペディアンに執筆レポートをまとめてほしいですね。また、ツイッターでさえぼーさんが指摘していた、ウィキペディアの歴史を散逸させないという観点からも、レポートの作成は非常に重要なことだと思います。

4つ目は、アフリカに関する記事を充実させる Africa Day Campaign 2023 ですね。このキャンペーンは、6月12日から30日にかけて実施されていたのですが、気付くのが遅く、参加できませんでした。来年こそは何か記事を作りたいですね。なお、このキャンペーンに関する、各地のウィキメディアンのツイートも楽しく拝見しました。

5つ目は、ウィキメディアンの Sara Horvat さんを紹介した記事 “Celebrating Sara Horvat!” ですね。下記の記述が特に印象に残りました。

For Sara, it is important that young people have strong fact checking and critical thinking abilities, the core life skills needed for them to thrive in today’s (and tomorrow’s) world.

2023年6月の編集活動

Takenari Higuchi

6月はプライド月間だったので、LGBTQ +に関する記事を4つ作成しました。

この模様は「One Month, Four Prides:ひとりで臨んだプライド月間エディタソン」という Diff の記事にまとめました。近日中に公開されると思うので、ご興味があればぜひ。他にも、[[日本におけるボディビル]] という記事を作成しました。

Eugene Ormandy

今月はウィキペディアは少ししか編集していませんね。Diff 記事は14本作成しました。

まずは恒例の図書館訪問シリーズですね。今月は豊島区の上池袋図書館池袋図書館に行きました。

また、シリーズものとしては、5月分の振り返り記事も書きました。

ウィキペディアンのインタビュー・対談記事も作成しました。優秀な方々のお話を聞けて楽しかったです。なお、このような記事は、上述のさえぼーさんのツイートにもある「ウィキペディアンのオーラルヒストリーをアーカイブしないとマズい」という危機感のもと作成しています。

あとは、ウィキペディア記事の調査・執筆方法を振り返ったマニュアルや、執筆哲学についての記事も書きました。どなたかのお役に立てば幸いです。

また、6月は東京都港区の三康図書館で、ウィキペディア編集イベント WikipediaSanko を開催したので、そのレポートを作成しました。イベントの進行を振り返ったレポート、イベントのレジュメを一部改変したレポート、イベント時の自分の頭の中を振り返ったレポートの3種類を作成しています。ウィキペディアのイベントは多角的に分析されるべきだと常々思っているので、自分で実験してみました。なお、WikipediaSanko 終了後に、自分のイベントへの関わり方についても言語化してみました。

『慶應塾生新聞』の取材を振り返るレポートも作成しました。記者の和田さんが大変優秀な方だったので、その手腕について言語化しておきました。このような敏腕記者が増えてほしいなと切に願います。なお、ウィキペディアンがメディア取材を受けた際に作成したレポートをまとめた記事も、ついでに作成しておきました。

なお、Diff での執筆活動のほか、今月はウィキペディア図書館に Web OYA-bunko と朝日新聞クロスサーチを追加するようリクエストを送りました。実現されるといいなと願っております。

2023年6月の気になった記事

Eugene Ormandy

今月は [[日本の化粧文化史]] という記事が気になりました。化粧やファッションに関するウィキペディア記事はあまり充実していないので、このような記事ができたのは非常に喜ばしいことだと思います。

Takenari Higuchi

今月は英語版ウィキペディアの [[Longcat]] という記事が気になりました。この記事の冒頭には “Longcat (2002 – 20 September 2020) was a Japanese domestic cat that became the subject of an Internet meme due to her length. Longcat, whose real name was “Shiroi“” とあったのですが、日本語ユーザーなら、これは明らかに「Shiro (シロ)」の間違いだと気付きますよね。

何故こんなことになったのだと思いながら、出典として挙げられている記事を確認したところ、なんと “While Longcat’s real name is Shiroi (which means white), Japanese fans gave the cat the initial nickname of Nobiiru or Nobiko, which means “stretch.”” という文言がありました。つまり、ウィキペディアが出典としていた記事が間違ってたわけですね。

仕方がないので、日本語文献を使って、英語版ウィキペディアを修正しておきました

Eugene Ormandy

作業お疲れ様でした。頭が痛くなる事例ですね……。

まとめ

盛りだくさんな月でした。色々と事態が好転してほしいものです。2023年上半期の激流を、後世の方が検証する際の資料として、本稿が少しでもお役に立てば幸いです。

余談ですが、本稿を執筆している2023年7月初頭時点で、Twitterのウェブアーカイブができなくなりました。Diff で Twitter を紹介する際、私は必ずウェブアーカイブのリンクを併記していたのですが、本稿ではそれが叶いませんでした。なんとも暗くなるニュースですが、ご報告まで。